英国現地ルポ、「EU離脱派」の熱狂は冷めた ジョンソン氏撤退で迷走する英国トップの座

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さらにはEUとの条件闘争も、決して平坦な道のりではない。ジョンソン氏は、「離脱後に移民を抑制するポイント制度を導入しながら、EUへの市場アクセスを維持するのは可能」、と主張してきた。一方で、「EU離脱が決まっても結局とどまる、“Bremain”のシナリオも消えていない」(大和総研の菅野氏)。

というのも、EUの国民投票に関する法令では、投票で離脱という結果が出ても、実行する義務が規定されていないからだ。EUからの移民流入を抑える法案や、EU共通政策の足カセが外れた独自の自由貿易法案の成立にこぎ着けられれば、あえて離脱を選ぶ必要はない。

もっとも、EU側から見れば、それは単なるいいとこ取り。投票後に行われたEU主要国の外相会議では、正式な離脱手続きを迅速に進めるよう、英国に注文が相次いだ。最近人気のフリーペーパー「ロンドン・イブニング・スタンダード」は、「英国はクラブ(=EU)に残るか離れるかのいずれかだ」という、ドイツのキリスト教民主同盟幹部のコメントを取り上げている。

大変なのはむしろ離脱派の方

「ロンドン・イブニング・スタンダード」もEU他国からの厳しい反応を取り上げた

いわゆる“離脱ドミノ”現象で、国民投票の動きが他の加盟国へ波及するのを避けたいEUは、当然ながら「離脱となれば、ある程度の痛みを伴うのは当たり前」という線で、落としどころを探ってくるはずだ。

「ロンドンは何も変わっていない」。

トラファルガー広場に多くの市民が集まったこと以外、国民投票の余韻はほぼ残っていない。「残留に投じた人は一定のスキルを持つ高所得者だから何とかなる。景気後退で労働需給が悪化すれば、大変なのはむしろ離脱派の低所得者」。シティで働くある金融マンの見立てだ。

地元メディアは国民投票で離脱票を投じたことに後悔する人々の声を取り上げている。ロンドンにいると、投票直後のユーフォリア(熱狂的陶酔)から覚めた今、明暗が入れ替わっているようにも思える。

                    (写真はいずれも記者撮影)

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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