「東大の世界史」はありえないほど面白い 「歴史は繰り返す」を感じさせる「大論述」

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そんな、時宜にかなったエッセンシャルなテーマが出題される「東大の世界史」は、ときには未来をも予見しているのではないかと思わされることさえある。たとえば、2005年度の問題がまさにそうであった。興味のある読者は、以下の問題にぜひチャレンジしてみてほしい。

■2005年度 第1問
:人類の歴史において、戦争は多くの苦悩と惨禍をもたらすと同時に、それを乗り越えて平和と解放を希求するさまざまな努力を生み出す契機となった。
第二次世界大戦は1945年に終結したが、それ以前から連合国側ではさまざまな戦後構想が練られており、これらは国際連合など新しい国際秩序の枠組みに帰結した。しかし、国際連合の成立がただちに世界平和をもたらしたわけではなく、米ソの対立と各地の民族運動などが結びついて新たな紛争が起こっていった。たとえば、中国では抗日戦争を戦っているなかでも国民党と共産党の勢力争いが激化するなど、戦後の冷戦につながる火種が存在していた。
第二次世界大戦中に生じた出来事が、いかなる形で1950年代までの世界のありかたに影響を与えたのかについて、解答欄(イ)に510字以内で説明しなさい。
その際に、以下の8つの語句を必ず一度は用い、その語句の部分に下線を付しなさい。なお、EECに付した( )内の語句は解答に記入しなくてもよい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
大西洋憲章、日本国憲法、台湾、金日成、東ドイツ、EEC(ヨーロッパ経済共同体)、アウシュビッツ、パレスチナ難民

 

このように入試問題第1問「大論述」は、いくつかの材料を与え、細部からグランドデザインをさせるタイプの問題だ。それぞれの語句についての断片的な知識があっても、それらすべてのつながりが俯瞰的に見えていなければ答えることは難しい。

 この問いの解答例は以下のとおりだ。

まるで現代を現しているかのような問題

解答例:第二次世界大戦ではファシズムの枢軸国に対抗するために米英首脳が大西洋憲章を発表、ソ連も参加して連合国が結成され戦いに勝利した。戦後ドイツは米英仏が占領した地域が西ドイツ、ソ連が占領した地域が東ドイツとなって分裂国家となった。
日本の敗戦により中国では内戦が再開、共産党に大陸を追われた国民党は台湾を統治することになり中国の統一は実現しなかった。また朝鮮も米ソに分割占領され、ソ連占領地域には金日成を指導者として朝鮮民主主義人民共和国が、米国占領地域には大韓民国が建国された。日本は米国の占領下で制定された日本国憲法で戦力を放棄したものの、朝鮮戦争中のサンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約で西側陣営に組み込まれ自衛隊も発足した。
西欧では資源をめぐる独仏対立に起因する戦争を回避するためにECSCの成立に続いてEECも成立した。大戦中、アウシュヴィッツ強制収容所等でナチスにユダヤ人が大量に殺害されたことはシオニズム運動を加速させ、国連のパレスチナ分割決議をへてイスラエルが建国されるとアラブ諸国との間に第一次中東戦争が勃発したが、イスラエルが領土を拡大したので多数のパレスチナ難民が発生した。
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