EUを抜けても、英国の「外交パワー」は不変だ 外交において英国が誇る絶大な影響力とは?

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このように欧州と英国の間には切っても切れない関係が残ることを考えれば、国民投票に勝った離脱派が「独立だ」と叫ぶのにどれほどの意味があるか疑問に思えてくる。

第3に、英国は国際社会において強い発言力を持っている。それはGDPが大きいためでなく、コミュニケーション能力に加えて豊かな国際経験とノウハウがあるからだ。

英国の地位と発言力はEUの主要メンバーであることによって支えられ、強化されている面もあるが、英国自身の特質である。

英国が誇る豊かな国際経験は侮れない

これはあまり語られないことだが、歴史的にさまざまな局面で英国はその特質を発揮してきた。米国も英国を頼りにし、たとえば、第二次大戦後のサンフランシスコ平和条約交渉においても、米国は疑問に逢着すれば英国に相談していた。さらに歴史をさかのぼれば、日英同盟時代にも英国はそのような役割を果たしていたと言えるだろう。

話は飛ぶようだが、この関連で最近の英国と中国の接近傾向が注目される。それを象徴的に表していたのが2015年10月の習近平中国主席の英国訪問だった。英国には人権問題などについて中国政府に批判的な意見があるが、英国政府はそれを乗り越え、習近平主席を大歓迎し、習近平主席とキャメロン首相は総額7兆円を超える巨額契約を結ぶことに合意した。

また、アジアインフラ投資銀行についても、米国から慎重に対応するようくぎを刺されたにもかかわらず、英国は習近平主席訪英の約半年前に急きょ参加を表明し、ほかの欧州諸国が雪崩を打って参加する範となった。英国は、新しい刺激の源であり、また、引っ張ってくれるエンジンとして中国経済に頼ったのだ。

一方、中国は、日本と同様、EU市場へ進出するための橋頭保として英国を見ていた可能性もあるが、それだけではなく、英国を中国の理解者として引き寄せる狙いもあったと思われる。南シナ海などで孤立しがちな中国にとって、英国が、中国の行動に賛成しないまでも、一定の理解者となることは大きな意味がある。中国には失礼かもしれないが、中国政府の発表の信頼度は高くないが、英国が発言することは国際的に説得力がある。中国としてはそのようなことも考慮に入れて英国との関係強化に応じたのだと思われる。

もちろん英国の外交姿勢はオセロの石のようにくるりと転換するものでない。英国は最近のG7首脳会議でも、外相会合でもほかの国とともに中国の国際法を無視した恣意的な行動には懸念を表明しており、その姿勢は明確だが、中国がいずれ中国流の要求を強めてくることは不可避だろう。英国が、今後、中国についてどのような発言をするかいっそうの注意が必要だ。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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