欧州の洪水は北半球規模の猛暑の前触れか? ユーラシア大陸東西の異常気象の共通点とは

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欧州の中緯度高気圧は次第に勢力を東に延ばし、地中海を覆った後にロシア南部や中近東の砂漠地帯にまで達し、クウェートやドバイなどの気温を45℃超のレベルまで押し上げる。これが、2015年夏の猛暑の有り様が東アジアと欧州北西部とで似通い、北半球レベルとなったメカニズムだ。

最後に、半球規模の猛暑に対するバイオクリマの問題をまとめておこう。結論を先に言うと、「このような異常高温をのり越えるには、人間の生活や行動が時間の経過や空間の要因によってどう影響を受けるかを正確に把握して、対策や効果などを考えるべきである」ということだ。

まず、学校では生徒や学生が在校しているかどうかで、時間と空間で見た対策は非常に異なるし、病院でも入院患者の病棟(日中・夜間)か、外来患者(日中)か否かで区別して、対策を立てる必要がある。各施設が対策を立てて経費負担・予算化すべき課題と、市町村レベルか、国が予算化すべき課題かの振り分けも重要だ。

このほか、「都市空間」に関しても、高層ビル、地下街、都心部、郊外住宅地などを区別して対策を立てる必要がある。また、人間の「行動空間」として、ベッド、居室、通勤・通学路と、利用している列車、船舶、航空機など、対象の時間と空間とを整理して、個別に考えねばならない。

心理的効果は「時代」によっても左右される

これまでほとんど論じられていないのは、昼と夜の差だ。暑さ対策は日中だけに目が向きがちだ。しかし、東京などの大都会では夜間も蒸し暑い。また、人間の行動範囲などは暗いときと明るいときで著しく異なる。行動計画は、昼夜別に作る必要があるだろう。

また、高齢者、特に70歳代以上は、男女別の差が大きくなる傾向がある。家族構成や社会生活の状況が変化し、日常の生活行動のパターンが次第に変わってくるためだ。

さらに問題は、猛暑が人間の生活に及ぼす影響が生理的な面ばかりでなく、心理面にも現われる点だ。「涼しげなたたずまい」は和風建築の暑さ対処の粋で、風通しもよく、室内気温も低い。風鈴の音がすれば、それだけで微風を感じ、暑さを忘れる。特に短時間においての狭い空間では、心理的効果は大切である。

東京でも下町の路地の「打ち水」はすばらしい。路地の両側や玄関脇に植木鉢が並び、暑い夏の日の夕方、水撒きされている空間は心が安らぐ。いつまでも残したい光景だ。住んでいる人たちへの生理的・心理的効果は大きいであろう。人びとが育んできた暑さ対策の景観の遺産として、これ以上のものはないであろう。

しかし、この遺産の成立条件はよく検討しておくべきだ。すなわち、江戸時代末から明治時代にかけては、いわゆる〝小氷期〟の時代で、夏の気温は比較的高くはならなかった。また、木造建築が主流だったため、都心部における猛暑の影響は今日よりも小さかったと考えられている。

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