日産とトヨタの拡大戦略は一体何が違うのか 「ゴーン流」は多様な提携に活路を求める

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国内の水素ステーションの整備では人件費や修繕費などのランニングコストのうち、3分の2を国が、残る3分の1を自動車メーカー3社(トヨタ・ホンダ・日産)で補助している。水素ステーションと燃料電池車は普及には両方が欠かせないという関係から「花とミツバチ」に例えられることが多いが、実用化凍結の方針を受け、ミツバチである車については「各社さんにお任せする」(坂本副社長)と素っ気ない。

この決断も極めて「ゴーン流」といえる。将来性の高い技術が出てくれば、臆することなくそちらにウェイトを移す。ビジネス判断としては当然なのだろう。

日産傘下の部品メーカー、カルソニックカンセイの株売却検討も自然な流れなのかもしれない。日産は約41%の株を保有しているが、全株を売却する方針で、投資ファンドや国内外の自動車部品メーカーが関心を示している。日産は1999年から始まったゴーン社長の経営再建策として系列部品メーカーの大半の株式を売却したものの、当初は重要部品のコックピットモジュールを生産できるという観点でカルソニックカンセイについては傘下に残した経緯がある。

系列にはこだわらない

同社の現在の主力商品は空調や排熱、内装部品だが、自動運転など新分野への対応は出遅れている。かねてからゴーン社長は「株の保有と取引は別」と主張していて、株を手離したとしても取引は継続できる。系列にとどめるメリットがなければ株を売却し、成長を促す。系列解体で旧日産系サプライヤーは大きな痛みを伴ったが、コストや技術を磨いたことで取引先が拡大し、成長を遂げた企業があるのも事実だ。系列を残し、グループとして体力をつけようとするトヨタとは対照的だ。

週刊東洋経済は6月25日号(20日発売)で『自動車 風雲流』を特集。複数の企業による排ガスや燃費をめぐる不正、相次ぐ再編など風雲急を告げている自動車業界の最前線を追った。

日本の自動車メーカーはこの数年、大型車を中心とする北米市場の活況と円安に支えられ、順風満帆だったといえる。しかし、為替は今年に入って円高に触れてきており、これまで牽引してきた北米市場も天井が見えてきている。

資源安で新興国経済もふるわない。年々厳しくなる環境規制への対応もまったなしで、今後の自動車の商品性を大きく左右すると言われる自動運転については、電機やITなど異業種からの参入が相次ぎ覇権争いが激化している。

商品、技術、市場の3つの側面で他社との提携に好機があるとみたら、果敢に攻め、連合を拡大していく日産のゴーン社長。その経営術はトヨタやVW、GMなど核となる1社を中心に複数のブランドを有する他の自動車グループとは一線を画する。どちらの方法が正解かは歴史の検証を待つしかないが、一つ確かなことは、動乱期に入った自動車業界では何もしないことが命取りになるということだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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