「炉心溶融」という言葉を禁じたのは誰なのか 政府が情報統制、自治体や住民に事実を伝えず

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そのうえで「いずれにしても、この点は結果論を述べるほかなく、当時の判断の当否については、当第三者検証委員会は判断できない」と歯切れの悪い結論になっている。

炉心溶融の公表が遅れたことについては、東電の原発が集中立地する新潟県が数年来問題にしてきた。東電は当初から、「炉心溶融を判定する基準を盛り込んだ社内マニュアルは存在しない」との説明を繰り返してきた。それが今年2月になってマニュアルがあったと前言をひるがえした。これをきっかけに第三者検証委員会が発足した。

官邸の"誰"の指示だったかは未解明

田中委員長から報告書を受け取る廣瀬社長(撮影:尾形文繁)

だが、委員会は当時の菅直人首相を初めとする官邸関係者や海江田万里経産相(当時)などのキーマンへの事情聴取をしておらず、官邸からの指示が誰によるものなのか、依然として未解明の点が少なくない。田中委員長自身も「任意の調査なので限界がある」と認めている。

報告書では、東電からの通報が炉心溶融の事実を明記していない炉心損傷割合だけであったものの、保安院の説明により官邸は適切な判断ができたということを理由に、「国のなすべき避難指示等の実施に影響はほとんどなかったはず」としている。その一方で、「地元の県、市町村に対する説明としては、不十分な通報だったと言わざるをえない」とも述べている。

「炉心溶融公表の遅れは、住民自身の避難の判断の遅れや無用な放射線被ばくにつながったのではないか」との記者の質問に田中委員長は、「住民にとっては、国による避難指示だけで十分かというと親切度が足りない」と答えている。

また、原子力災害対策特別措置法や同法施行規則で炉心溶融判定の基準が明記されていなかったことや原子力緊急事態宣言がすでに出されていたことなどから、炉心溶融の隠ぺいがあったとしても違法性は問えないとの認識も田中委員長は示している。だが、そう言い切れるのか。

第三者委員会の検証結果を踏まえて、新潟県の泉田裕彦知事は当時の清水社長が「炉心溶融」という言葉を使わないように指示していたことが認められたことで、「これまでの県技術委員会への説明は虚偽であり、きわめて遺憾である」とのコメントを出した。

第三者委員会が重要な事実を明るみに出した一方で限界もあらわになった以上、公的な機関による関係者への聴取を含めた事実究明と責任の所在の明確化が必要だろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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