凍土壁建設、被曝15ミリシーベルトとの闘い 多大な代償を伴い東電の汚染水対策が前進

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冷凍機のスイッチを押す福島・第一原発の小野所長(写真提供:東京電力)

東京電力・福島第一原子力発電所で3月31日、凍土方式の「陸側遮水壁」の凍結運転が始まった。今後、3段階に及ぶ凍結作業を経て原子炉建屋を凍った土で囲うことにより、原子炉建屋への地下水の流入量を現在の日量500~600トンレベルから、最終的には70トン程度に減らすことができると東電は見込んでいる。

31日午前11時20分に、30台ある冷凍機のうち第1号機のスイッチを福島第一の小野明所長が押すと、関係者から拍手が起こった。東電が汚染水削減のための抜本対策と目してきた設備が当初の計画よりも1年遅れてようやく稼働にこぎつけた瞬間だった。

大手ゼネコンの鹿島が施工した陸側遮水壁の総延長は約1.5キロメートル。1568本もの配管を地下25~30メートルの深さまで打ち込み、配管内に零下30度の冷却材を流す。総工費は350億円近くにのぼり、経済産業省の「実証事業」として国の予算が投じられた。

凍土壁の効果を原子力規制委員会は疑問視

原子炉建屋内の汚染水の水位が周辺の地下水の水位よりも高くなって建屋の外に汚染水があふれ出すことを防ぐため、当初は下流部分の海側全面を凍らす一方で、上流の山側は半分程度の凍結にとどめる。その後は水位のコントロールができていることを確認したうえで、山側の凍結を95%まで進めていく。ただ、原子力規制委員会による認可は現時点ではここまでで、陸側遮水壁を完全に閉じるまでの手順についての認可は得られていない。

凍土壁の効果についても見方が分かれている。東電や経済産業省が地下水流入量抑制に大きな効果を期待しているのに対して、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「汚染水問題の本質的な解決にはつながらない」との見方を示している。また、凍土壁は地下鉄工事などで用いられてきたものの、今回のような巨大な規模かつ長期にわたる運用実績はないため、効果の発現に未知の部分もある。

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