井上さんが、ブラジルで感じたのは、ビジネスチャンスへの感度の高さだ。訪問先で、ブラジル進出に興味を持っている日本企業の話をしてみたところ、その食いつき方は、尋常ではなかったという。
「『私が以前勤めていた投資銀行とこんなことができないか』とか、『夫の家族が経営する企業が、ブラジルに支社をつくるとするとどういうことができるか』とか、業種にかかわらず具体的な企業名を挙げて議論すると、前のめりになって、話を聞いてくれます。抽象的な話よりも、リアルビジネスです。本当にその場でビジネスの話が決まっていきそうな勢いでした」
ブラジルで見たのは、光の部分だけではない。光の分だけ、影があった。それを強く感じたのは、スラム街の中を歩いたときだ。
「ブラジルは今、2016年の夏のオリンピックに向けて、急ピッチで都市の整備が進められています。その一方で、街の至る所にスラム街があります。
現地の人の案内で、スラム街を歩いたとき、家族のために必死に肉体労働をしている人たちの姿に、胸を打たれました。自分が育った環境がどれだけ恵まれていたか、そして、自分も新興国の発展に役立ちたいと思うようになりましたね」
“言い訳”しないトレーニング
「もう30歳だから新しいことを始めるには遅すぎる」
「恥ずかしいから、そんなことはできない」
「きょうは疲れているからここまでにしよう」
こんなふうに「やらない」「行動しない」言い訳をすることは、誰でもよくあるだろう。
井上さんが12年4月に受けたケロッグの授業は、こういう自分の中にある壁を打ち破ってくれる授業だ。
「Corporate Innovation and New Ventures」(社内イノベーションと起業)は、既存の大企業でどのようにイノベーションを起こすか、変化に対して抵抗感のある大企業で、どのように考え方を変えていくか、を学ぶ。
大企業でありがちな、「No/but」(できません/そうはいうもののこういう事情が…)という考え方を「Yes/and」(やりましょう/それにはこういうことが必要です)という考え方へ変えていく方法を、訓練していく。
要は、「言い訳しないトレーニング」だ。
3時間余にわたって、「Yes/and」のみを使ってミーティングをする演習もあったという。Noを使わないで、自分の意見を言うのは、意外に難しいことが分かる。
「自分と異なる意見を持つ人に対しても、『Yes/and』で議論をしていくと、新しい考えが浮かんでくるのがわかります。先生は日常生活でも、『Yes/and』を意識して使ってみると、ポジティブな思考になるよとおっしゃっていました」
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