「仕事が遅すぎる人」に共通する残念な考え方 すべての仕事は必ずやり直しになると心得よ

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私はWindows95を予定どおりに発売するために、全力で仕事をしました。その結果、きちんと1995年8月24日にグローバル版が発売されました。しかし発売当時、Windows95には約3500個のバグが残っていました。私たちはそれを知っていましたが、そのまま発売することになりました。もちろんバグは修正することができます。だからスマホアプリの開発者はいつもバグの修正に奮闘しているわけです。

けれどもそのバグの数は、大規模なプロジェクトの場合、ある臨界点に達するともうそれ以上減らないということがプログラマーの世界では知られています。なぜなら、あるバグを直すとその副作用でほかのところでバグが発生する可能性があるからです。つまりソフトウェアのバグというのは、完全に0にするのがとても難しいのです。

それゆえプログラマーたちは、100点じゃなくてもいいので90点や80点のプログラムを必ず納期に提出することが求められています。「兵は拙速を尊ぶ」という言葉は仕事にもまさに当てはまるのです。

Windows95はそういう理由から、3500個のバグを残したまま製品化されました。といっても、深刻なバグはもちろんちゃんと修正してあります。たとえば保存したはずのファイルが勝手に消えるといったバグを残してしまっては、使い物になりません。だからそういったものはちゃんと検証して除去しています。

ただ、ユーザーが通常の使用をする中では発生しないような細かいバグは修正しませんでした。たとえば一般のユーザーが絶対に知らないような特殊なコマンドを入力すると画面が消えてしまうなどです。そういったものまで完璧に除去しようとすると、無限に時間がかかります。それでは発売予定に間に合いません。

許容範囲を見極め、割り切る

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それでもご存じのように、Windows95は世界に大きなインパクトを与えました。おそらくWindows95は、細かいプログラムの知識を持っている専門家にとってはたいへんな手抜き製品に見えたことでしょう。しかし大事なのは、一般のお客さんにとってどれだけいいものを素早く提供できるかです。バグの修正は発売後にもできますから、そこは許容範囲を見極め、割り切ってしまうべきです。

もちろん、仕事のクオリティを上げるために時間を費やすのは間違ったことではありません。適当な仕事を繰り返していては上司からの評価も下がります。しかし時間を費やすあまり締め切りギリギリになったり、あるいは締め切りを過ぎてしまったりしては上司からの評価はもっと下がります。

クオリティが低くて怒られることよりも、締め切りを守れずに「時間を守れない人だ」という評価をされることを恐れてください。

中島 聡 Singularity Society代表

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なかじま さとし / Satoshi Nakajima

1960年生まれ。米国シアトル在住。早稲田大学大学院理工学研究科修了。米ワシントン大学でMBAを取得。早稲田大学大学院修了後、NTTの電気通信研究所に入社し、わずか1年で設立間もないマイクロソフト日本法人へ転職。3年後、米国本社へ移り、Windows 95、Windows98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトなどを務めた。現在は、シンギュラリティ・ソサエティ(2018年8月設立)代表理事としてAI時代をリードできる人材育成に取り組む。著書『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(文響社)。

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