「沖縄の貧困」は学歴社会と暴力が生み出した 平均年収は全国最下位、雇用は崩壊状態

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離婚した。無収入の夫は離婚を納得して自分の実家に戻り、出産1カ月後にキャバクラに戻ってライフラインを復活させた。長女と2人暮らしが始まる。

「自分のツライことが、全部子供に向くわけ。だから虐待しちゃう。今もヒドイけど、2年くらい前は本当にヒドかった。子供はアザだらけだよ。どうして虐待かって? 瞬間的にそうなる。表情が夫に似ている瞬間とか。こいつにカネがかかる、離婚してもたかってくる夫にもカネがかかる、夜の仕事と子育てで自分のことは何もできない。なんだ、お前も夫と一緒かよって、思考回路。本当は夫に暴力を振るいたいけど、やり返されるから子供にいく。本当に最悪」

虐待に悩むようになった。子供と一緒にいると、どうしても拳を振り上げる瞬間がある。そして、地元の仲間や男に誘われて外泊をするようになった。子供は置いていく。子供ひとり、部屋に押し込めて鍵をかけて、遊びに行く。2010年7月、風俗嬢の21歳の母親がネグレクトで2人の子供を餓死させた大阪2児虐待事件と同じ状況だ。

「子供なんていなければいいって、あの人の気持ちはメッチャわかるよ。殺意はないと思う。子供に生きていてほしかったけど、途中でどんどん現実逃避して、最悪の結果になったんだろうね。あのね、現実逃避すると、徐々に子供を放置する時間が長くなるの。最初は2時間だけと思っても、2時間大丈夫だった、じゃあ次は3時間ってなる。結局、それが一晩になるわけ。ネグレクトって段階がある。私がラッキーだったのは、自分が一晩空けるようになってからあの事件を知ったこと。彼女のほうが先に事件になってくれたから、自分はこのままだとまずいって思えた」

キッズ携帯に児童相談所の番号を登録

23歳、母娘の2人暮らしは4年目に突入した。母親や祖母に協力してもらって週5回は働き、16万~17万円は稼がないと最低限の生活はできない。子供を実家に預けて、出勤する。母親と祖母は文句を言いながらも、子供を預かってくれる。周りに助けてくれる家族がいる、シングルマザーの中では恵まれている環境だが、それでも仕事と育児に追われる生活はツライという。

「キッズ携帯に実家と娘のことを知る友達、それと児童相談所の番号を登録して、お母さんが1日とか2日帰ってこなかったら電話してって言ってある。いつ頭がおかしくなるか、わからないから。まずいなと思っても外泊はやめられないし、歯止めが利かない。自分の時間がないと、本当に壊れる。子供とずっと一緒にいたら、結局、殴っちゃうもん。それは治らない。殴りたくないから、今でも遊びに出掛ける。殴るより、遊びに行ったほうがいいって現実逃避だよ」

4歳の娘の写真を見せてもらった。満面の笑顔でカメラを見つめている。本当にかわいい女の子だった。里見さんはこれからヘアメークをしてキャバクラに出勤をする。

「キャバで一緒の大学生がいるけど、彼女たちには卒業がある。でも、自分には卒業がない…って思うと、本当に落ち込むよね」

最後に大きなため息をついて、里見さんの話は終わった。貧困が蔓延する沖縄でシングルマザーになった彼女は、ずっと松山に出勤するしか選択肢がない。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

 

中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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