昨今の「貧困コンテンツ」ブームが危険な理由 底辺ライターが「貧困報道」に物申す!

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ネットカフェ難民報道についてもそうだ。テレビさんや新聞記者さんは、実際に何日かネットカフェ生活を体験してみることすらしなかったのだろうか。そこにいるのは何も若い男女や派遣労働者だけじゃない。売れないセックスワーカーのおばちゃんや、住所不定、職業(半ば)犯罪といった怪しいオッサンまでがたくさんいたはずだ。

ネットカフェという新しい業態と派遣労働者問題という新低所得層が時流にマッチングしたからか、やはり選択的に若い失職者や携帯1本で生き抜く派遣の若者ばかりがピックアップされた。

背景になった彼らは、何年も前から貧困者だったかもしれないし、その公園はそれこそ日本経済が頂点を迎えたバブルの時代から路上生活者への炊き出しをやっていたはずだ。ネットカフェのおっちゃんおばちゃんもそうだ。ネットカフェなんて業態が生まれるずいぶん前から、町の汚いサウナやカプセルホテルなんかには、住民票の住所に住める人間と路上生活者の境界線にある貧困者がたくさんいたものだ。

そんな彼らを背景とし、キャッチ―で今風貧困な取材対象者だけをピックアップすることの最大の問題は、はやりで紋切化したコンテンツはいずれ飽きられて、人が目を背けるようになることだ。飽きられないように新しい当事者、よりキャッチ―な当事者へと取材はエスカレートしていくだろうが、いずれは飽き去られ、「またこの手の貧困ネタっすか、ゲップ」という感じに、タイトルだけで読み飛ばされるようになりかねない。昨今の「貧困女子報道」「子供の貧困報道」では、すでにその読み飛ばしモードまでコンテンツの消費が進んでいるようにも思える。

貧困問題は、消費されてはならない

だが、貧困問題とは本来、こうした消費コンテンツとして決して消えてはならない、社会全体の大きな問題だ。そもそも昨今の貧困報道で「背景扱い」されたような、過去からずっとずっと世の中にあって、無視され差別され続けてきた貧困者を放置してきたことが、社会全体の底が抜けて、貧困が身近なコンテンツになるまでに至ってしまった原因だと思っている。

先日、知人の先輩編集者から、「鈴木さんは貧困報道の一人者ですよね」的なことを言われたがとんでもない。僕などは何の専門ライターかと言えば「売春と窃盗と詐欺」の現場取材専門ライターにすぎない。底辺も底辺だけど、自身が底辺だからこそ、この社会から逸脱した人々への取材は、ずいぶん前から貧困の当事者取材でもあると認識して続けてきたし、今、こうして貧困コンテンツが「ブーム」になって大手メディアもこぞって紋切コンテンツを垂れ流しているのを見て、十数年間、裏の人々取材の中でたまりきった感情が暴発寸前である。

彼らを見世物にしないでほしい。コンテンツとして消費しないでほしい。けれど彼らの抱えた苦しみをきちんと報道し、可視化するべきだ。

最底辺ルポライターからの貧困報道への提言。見苦しい記事が続いて申し訳ないが、数回の連載の枠をいただいたので、お付き合いいただきたく思う。

次回は冒頭に突然登場してもらった揚げ句に、この最終行までスルーしてしまったウソつき貧困援デリ嬢「ホークちゃん」を例に、貧困報道にあってほしい「バイアスモード」について書きたい。

鈴木 大介 ルポライター

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すずき だいすけ / Daisuke Suzuki

1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当。

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