昨今の「貧困コンテンツ」ブームが危険な理由 底辺ライターが「貧困報道」に物申す!

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

さらにこうした定型の貧困コンテンツでは、その当事者がなぜ貧困に陥ったかのプロセスを描く。これがいわば病気の「セルフチェックシート」に近いもので、提示された身近な危機に実際に自分が陥るのかどうか、陥らないためには何をすればいいのかが描かれる。

そして、こうしたコンテンツに飛びついた読者視聴者たちは、「あたしヤバいかもしれないから対策しないと」もしくは「俺はまだ大丈夫だわ」となるわけだ。が、はたしてこれは貧困報道として、購読数・視聴数を稼ぐ以外の何の意味があるのか? 

それは単にエンターテインメントのひとつであって、貧困にいる人々の救済には何の役にも立ってこなかったどころか、大きな弊害すら生んできたように思えてならないのだ。

はたして「貧困=自己責任」なのか?

こうした紋切型の貧困啓蒙(警戒)コンテンツには、いくつもの問題がある。たとえば貧困者がそこに陥ったプロセスを描く中で、「ここでこの人は○○をしてこなかった結果、貧困になった」という場合、この○○をしなかった当事者に、貧困に陥った「自己責任」があるとも取られる。

だが実際はそうではない。少なくとも僕が取材してきた貧困者とは、いくつか自発的なリスク回避をしたぐらいで「貧困に陥らずに済む」ほど、軽い事情の持ち主たちではなかった。本人の資質や周囲の環境がからみあって、縁も運も何もかも尽き果てて、もうやむをえず、あがいても何をしてもはまり込んでしまって抜け出せないのが、貧困だ。そう感じてきた。

だが、多くの報道からはそうした複雑なバックグラウンドが抜け落ち、短い尺の番組や記事の中で、単に「非貧困者」のための予防情報を提供するだけだった。

一方で、「昨日まで普通のお父さん」的な読者視聴者に近いライフストーリーを過去に持つ貧困者を意図的に選択・報道することには、もうひとつ大きな問題がある。

たとえばあの年越派遣村報道の際には、公園の炊き出しに並ぶ多くの野宿者の中から、20代や30代といった若年ホームレスをピックアップして取材する姿が目立った。行列の中から彼だけをピックアップする姿に、吐き気を催した。公園で取材を受けていた「彼」以外の行列を成す野宿者が、見事に背景扱いだったからだ。

次ページネットカフェ難民報道も……
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT