情熱と創意工夫が「ゆうばり映画祭」を残した 困難を乗り越え続ける「地方映画祭」<1>

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そしてもうひと組、力強い助っ人が加わった。大泉洋、安田顕ら人気俳優たちによる演劇ユニット「TEAM NACS」も映画祭のサポートを表明。「われわれは昔から、鈴井貴之さんの映画、テレビやラジオの番組の手伝いをしたりしていた。(所属事務所の)クリエイティブオフィスキューとは親近感があったんですが、どこかお互いに遠慮していた部分があった。でもそれじゃいけないということで、まずは彼らから応援コメントを寄せてもらうことになった。本当は今年はTEAM NACSの結成20周年だったので、いろいろとイベントをやりたかったんですけど、彼らは売れっ子なので全員のスケジュールが全然押さえられなかった。こういうことは1年以上前からかけてやらないといけない。それは反省点です」(澤田実行委員長)。

さらに、人気AVシリーズ「マジックミラー号」を手がけたマメゾウ監督こと、映画プロデューサーの久保直樹氏もゆうばり映画祭への支持を表明したひとりだ。彼は、1993年に同映画祭のコンペ部門であるオフシアター部門で、監督作『トラッシュ』を出品し、グランプリを獲得。当時の審査員だった映画プロデューサーとの出会いがきっかけとなり、映像の世界に飛び込むことになった。その後、彼は人気AVメーカーを立ち上げ、会社も軌道に乗せた。

「映像の世界に入ったのはゆうばり映画祭がきっかけ。だから恩返しをしたかったんですよ」と語る久保プロデューサーは、メディアの自主規制の枠を外した18禁作品を通じて新たな才能を発掘する「フォービデンゾーン部門」設置のためのスポンサーを買って出た。久保は「映画祭でグランプリをとった監督が、スポンサーとなって帰ってくるというのは珍しいケースでしょうね」と笑ってみせた。

映画館はないけど「映画の街」

屋外で開催されているストーブパーティ。こうしたアットホームなイベントが映画関係者の親密な交流を生んでいる

「夕張の雪は世界一美しい。神が雪を降らせている場所だ」とは、『ヘイトフル・エイト』『パルプ・フィクション』などで知られる映画監督のクエンティン・タランティーノのコメントだ。かつて炭鉱の街と呼ばれた夕張には17軒もの映画館が軒を連ね、24時間にわたって映画が上映されてきた時代があった。しかし、今の夕張市には、映画館が一軒もない。それでも夕張は「映画の街」として多くの映画ファンに愛されている。

夕張で撮影された映画も数多い。山田洋次監督の名作『幸福の黄色いハンカチ』もその一本だ。そしてそのロケ場所は、「幸福の黄色いハンカチ想い出ひろば」という観光スポットとして一般に公開されているが、今期よりその運営を、NPO法人ゆうばりファンタが引き継ぐことになった。澤田実行委員長も「こちらの収入が、間接的に映画祭をバックアップすることにもなる。今後は思い出ひろばと映画祭との連携を積極的にしていきたい」と、語る。

「映画祭は来年もやります。まだまだ頑張りますよ」と、澤田実行委員長。先日、来年の開催日程が3月2日~6日となることが正式に決まり、作品募集も始めた。27回目の開催に向けて早くも動き出している。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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