原発事故「自主避難者」が主張していること 住宅の無償提供支援打ち切りに抗議

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全国の自治体の中には、自主避難者に配慮して来年4月以降、独自の支援策を打ち出した都道府県も現われてきた。埼玉県は4月の県営住宅の募集の際に、自主避難者向けの専門枠10戸を用意し、うち4戸で申し込みがあった。今後も要望を踏まえて、「100戸程度に枠を増やしていきたい」(県住宅課)という。

鳥取県では、来年4月から19年3月末までの3年にわたって、県営住宅や職員住宅を家賃全額免除のうえで原発事故の自主避難者を含む東日本大震災からの避難者に幅広く提供する。しかし、こうした支援実施は一部の自治体にとどまっている。

森松明希子さん(左端)は、国と東電を提訴した

郡山氏から大阪市内に避難している森松明希子さん(42歳)は、現在、小学校3年生の長男、保育園児の長女と3人暮らし。郡山市内の賃貸マンションに住む夫(46歳)とは原発事故後、5年にわたって離ればなれの生活を余儀なくされている。

自宅が地震被害で住めなくなった森松さんは原発事故直後、夫が勤務する病院内で当時3歳の長男、5カ月の長女と避難生活をした。そのとき、テレビを通じて東京の金町浄水場の水道水から放射性ヨウ素が検出されたとのニュースを知り、衝撃を受けた。

「当時、放射性物質が含まれているとは知らずに、原発からはるかに近い郡山で水道水を飲んでいたし、娘には母乳を飲ませていた。避難するまで2カ月にわたって被ばくを強いられていた」と森松さんは語る。

脅かされる「避難の権利」

「なぜ福島に戻らないのか理解できない」「過剰反応ではないか」――。多くの自主避難者は二重生活の過酷さのみならず、心ない差別や偏見にもさらされている。「自主避難者は風評被害を助長する存在だ」と罵倒する者もいる。

だが、「被ばくは人権問題であり、人の命や健康にかかわるもの」と森松さんは確信している。そして、夫および2人の子どもとともに、国および東京電力を相手に損害賠償請求訴訟を提起したのも、命や健康という基本的人権を守るためだ。

放射線被ばくから身を守る「避難の権利」は、日本国憲法に記された「すべての国民が恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存することを保障された基本的人権である」と、森松さんは「『脱被ばく』を考える」と題した「『子ども脱被ばく裁判』の会」会報への寄稿文で記している。そして、避難の権利は、原発事故後に与野党全議員の賛成によって成立した「子ども・被災者支援法」でも明記されている。

にもかかわらず自主避難者への支援は手薄なままだ。それどころか住宅支援打ち切りにより、避難者の人権が脅かされている。 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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