財政ファイナンスをやってはいけない 池尾和人慶應義塾大学教授に聞く
――これまでは民主党政権下で財政再建の旗は降ろしていませんが、「デフレ脱却」の掛け声の下に、金融緩和の方向に進んできました。しかし、効果は上がっていないようです。
「デフレ」の定義を改めてたずねれば、たいていの論者は「持続的な物価下落の状態」という公式の意味を答えるだろう。しかし、日常の会話の中で、多くの人々はそういう意味で「デフレ」と言う言葉を使っているのではないだろう。なんとなく、経済の調子が悪い、景気が悪いことを指して言っている。「デフレで経済の調子が悪い」といった具合である。
しかし、これは「熱が出て体の調子が悪い」と言うのと同じで、実は、原因と症状を取り違えた表現だ。実際は、体のどこかがおかしくなっているから熱が出ている。デフレも同じで、グローバル化や高齢化の時代に合う産業構造への転換ができていないから、デフレになっている。
デフレさえ解消すればよいと言うのは、熱さえ下がればよいと言うのと同じ。対症療法もある程度は必要だが、対症療法である金融政策ばかりに頼るのではなく、根本治療にシッカリと取り組むべきだ。そうした地道な努力は辛く、面倒なので、それをなおざりにして、金融緩和というという薬をがぶ飲みしている。しかし、適正量を超えて大量に薬を飲んでも、病気が早く治るわけではなく、むしろ副作用が心配される。
金融仲介機能の低下という副作用がより大きい
――その金融緩和の副作用についてはどう見ていらっしゃいますか。
副作用は既に出ている。金融緩和が続いてきたことによって、銀行の利ザヤが薄くなり、いまのような利ザヤでは人件費や物件費をまかなうことすら難しく、クレジットコスト(貸し倒れのコスト)までカバーすることは不可能となっている。そのため、手間隙をかけてリスクをとって小企業に貸し出しを行うよりも、国債を買うことが合理的になってしまっている。
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