財政ファイナンスをやってはいけない 池尾和人慶應義塾大学教授に聞く

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コストとリスクの大きい財政ファイナンス

――財政ファイナンスを行うと、どんなことが起きるのでしょうか。

インフレにすることだけが目的でほかの事はどうでもよいのであれば、マネタイゼーションによってインフレにすることはできる。1万円札を街角に積み上げて「ご自由におとりください」と書いておけばインフレになるのと同じことだ。国債を買って代金として貨幣を供給するという等価交換を行うのが金融政策であり、貨幣をあげますというのは、よく言って財政政策。既述のように、「おカネを貸す」ことと「おカネをあげる」こととは本質的に違う話なのだが、区別の付かない人が政治家には多いのだろうか。

池尾和人(いけお・かずひと)
慶應義塾大学教授
1953年生まれ。京都大学経済学部卒。経済学博士。京大助教授などを経て現職。ミクロ経済学的視点からの金融制度分析を専門とする。著作に『現代の金融入門【新版】』『開発主義の暴走と保身』など。

財政ファイナンスはギャンブルの色彩が強い話といえる。総合的に考えて、コストが大きく、リスクを伴うので賢明とは思えない。すなわち、既に悪い財政状態がさらに悪くなるというコストがかかる。そして、そのことで国債市場の安定が失われ、長期金利が高騰するリスクがある。そうなれば、銀行の財務状態が悪化して金融システムの健全性が失われ、財政が行き詰まるというリスクもある。経済政策を運営するに当たって、ある種の慎重さ、健全さということは必要だろう。

もちろん、もしかしたら国債市場が持ちこたえるかもしれない、混乱は何も起こらず成功するかもしれないという可能性は皆無ではない。しかし、必ず勝てるといった保証が全くないことは、よくよく認識しておかねばならない。安倍総裁は「大胆な」金融緩和と言っているが、リスクがなければ、日本語で「大胆」とは言わない。リスクがあるのに恐れずに向かっていくのが、日本語の「大胆」という言葉の意味である。

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