財政ファイナンスをやってはいけない 池尾和人慶應義塾大学教授に聞く

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しかし、もしロゴフ仮説が正しいとすると、財政赤字の累積に伴って先行きの期待成長率が下がるので、企業セクターは活発に投資をしなくなり、その余剰資金が財政赤字を支えるという循環が成り立つことになる。そのために、一種の低位均衡に陥ってしまう。現在の日本は、まさにこうした低位均衡の罠にはまってしまっているのかもしれない。

日本ばかりではなく、欧米も高齢化が進展して社会保障費が膨らんでいる。その結果、高水準の公的債務を抱えるようになっており、かつ、金融危機が起きたので、国債に資金がもっぱら回るようになっている。欧米も景気刺激策という名目で金融緩和を行っているが、実は、金融政策で景気刺激ができるという話は尽きてしまっており、国債消化促進策になってしまっているのが実態ではないか。もっとも社会保障負担は増大する一方で、増税も財政緊縮も限度があるなかで、中央銀行だけがそうした状況から独立していられるわけではないというのも、現実である。

ギャンブルよりも地道な努力を

日本の場合も持続可能な財政の姿を考えれば、国民の負担はいまよりも重くなり、支出はスリム化するしかない。しかし、冷静に考えれば、財政の破綻が避けられないと言うほど悲劇的な状況ではない。

消費税換算で30%ぐらいまで、すなわちあと25%の増税をすれば、プライマリーバランスの黒字を実現して、財政の持続可能性は回復できる。国民所得に占める消費の割合は60%なので、目の子算でいうと国民所得の15%分ほど生活水準を下げれば、なんとかなるということである。

他方で、15%生産性が上がれば、差し引きゼロで生活水準を引き下げる必要はなくなる。一年で15%の生産性を上げることは難しいが、いまでも10年くらいかければ、15%の上昇は可能だ。

したがって、当面はやや生活水準を下げざるを得ないとしても、その水準で足踏みしながら持続的に生産性を上げる努力をしていけば、解決は不可能ではない。いまの安定した国債市場はそういう実態を織り込んでいるのかもしれない。そうであれば、ギャンブル的な危ない政策を採るのではなく、地道な努力に、解決の道を探るべきだ。

(撮影:尾形文繁)

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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