勉強に興味を持てば授業を聞くようになり、授業を聞けばなんとなく理解する力がつく。理解する力がつけば親や教師から褒められて子どもが優越感を感じるようになる。優越感を持てば、自分から進んで勉強しようという原動力になりますよね。
一方で、最悪なのが、いきなり興味をくじかれること。そうすると勉強への関心をなくし、当然授業も聞かなくなり、両親や先生からもガミガミ言われる。そんな状況から、学習の動機を作るのはとても難しい。
だから、僕はメディアや講演会を通じて数学の魅力をわかりやすく説明したり、数学を五感で体験できる「数学体験館」を開いたりしているんです。「見る」を英語にすると“See”、でも「わかる」を英語にすると“I see”になるでしょ。実際に見たり、触ったり、実験したり、物を動かしたり、議論したり。こういう活動が数学の授業に今まであったかというと、皆無に等しい。先生が一方的に数十名の生徒に説明をして、それをただ子どもたちが聞くスタイルじゃあ、さっき言った興味や好奇心は育たないよね。そういったところをカバーできるような活動を続けているんです。
エルテス:なるほど。ただ、親や教師にとって好奇心を育てるのがいちばん難しい気もします。
秋山:そうだねえ。小学校の算数ぐらいまでなら、その知識がどんなふうに世の中に役立っているか、まだわかる。いちばん身近なものだと、おつりの計算とか。ところが、中学、高校レベルの問題になると、今勉強している計算や定理が社会の何に役立つのかが急にわからなくなる。学習内容と社会の接点が見えづらいんです。
エルテス:大人たちの関心や理解も薄いですよね。子どもの好奇心に火をつけようと思っても、歴史や理科なら知っているけれども算数・数学と社会の接点についてはそもそも自分も知らない。
秋山:そう。大人たちの問題でもある。昨年、ある県の首長さんが「女子に高校でサイン、コサイン、タンジェントを教えて何になる」といった内容の発言をして波紋を呼びました。彼の問題は、「女子だけに限定したこと」と「サイン・コサイン・タンジェントが無意味」と発言したこと。
前者は問題外だけれども、後者はわりと共感している人もいるんじゃないかな。三角関数は、古くからは測量や神殿の設計、新しいものだと病院のMRIの設計やCG制作の現場でも使われている。でも、そんなことを知っている人はまずいないよね。
エルテス:数学マニアの先生だとしたら、そういう教科書に載っていないおもしろさも伝えてくれるのでしょうが。学校ではなかなかカバーしきれない部分だと思います。
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