小網代の谷が「奇跡の自然」と呼ばれる理由

ひとつの流域生態系を観察できる

出かけてみれば、森の中を通り抜ける木のボードの一本の道が森を貫く。そこをのんびり歩きつつ環境を観察できるので、非常に足下が楽だ。広さは、明治神宮と同じくらいで70ヘクタール、散策にはちょうど良い広さである。

岸さんたちの20年を超える運動が実って保全が決まったのは2005年。国土交通省の近郊緑地保全地域に指定された。その後、2010年に、神奈川県による大規模な土地買収が進み、森全体の保全運動が実現した。管理するのは神奈川県だ。岸さんは、公益財団神奈川トラストみどり財団の支援を受けて、日常的な環境の回復保全維持運動を進める、NPO法人小網代野外活動調整会議の代表となり、柳瀬さんは副代表のひとりとなった。

それでいて、いちばん大事なことだが、通勤圏にありながらも、生物が多様でとにかく豊か、その数2000種以上だという。これはほんとうにすごいことで、首都圏ではここだけという貴重なものだ。岸さんによれば、「流域が源流から海までまるごと自然のまま残されている」からなのだという。

「流域」ってなに? という人には岸さんの『流域地図の作り方』がお勧めだが、小網代の自然環境を回復させるときの基本にもなった考え方で、本書でも触れられている。

水蒸気が雨や雪になって、大地に降ると、地表を流れる水は、川を下り海に流れて、また水蒸気として雲になるという「水循環」を繰返す。この「水循環」の単位でもあり、山のてっぺんから海の河口まで、川が大地を削ってつくる葉っぱのような地形を「流域」というのだ。そして、この特徴をうまく取り入れて都市計画や環境保全を考えることが、「流域思考」となる。

「流域」単位で土地をみる

東京近郊なら「利根川」「多摩川」「神田川」「目黒川」などなど、流域で考えると別の視点で地域が見えてくる。

たとえば、暴れ川として知られる「鶴見川」。水源は町田市で、通る地域を見て行くと(いずれも付近の駅・インター名)、鶴川(小田急線)、市ケ尾(田園都市線)、横浜青葉インター(東名高速)、港北インター(第三京浜)、中山(横浜線)、綱島(東横線)、鶴見(鶴見線、京浜東北線)、首都高横羽線、大黒ふ頭、そして東京湾へ、という具合で、見えなかった別のつながりが出て来ないだろうか。それぞれの土地を「流域」単位で見るとおもしろいのだ。

水循環の基本構造そのままに残っている、森全体をのぞむ

都心からつなぐ路線単位で分断して考えがちな東京近郊だが、災害時にはこの流域思考が必要になりそうだ。

と脱線したが、小網代には、首都圏で唯一、この「流域生態系」が水循環の基本構造そのままに、緑に覆われて残っているのである。そして、小網代なら、数時間のんびりと散歩するだけで、ひとつの流域生態系を観察できるのだ。

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