渡邉:そうした一部の企業が、たくさん稼いで、税金を納めて、国を支えてくれればいいということですか。
藤原:そうなりますよ。20年ほど前に住んでいたときのイギリスは、もうそういう社会になっていた。田舎に生まれて育った奴の中には、下手するとロンドンに行ったことない人もいる。でも、彼らが不幸かというと、そうではないんですよ。近所のパブで5~6時間話したり、教会でボランティアをしたりして、幸せを感じている。
だから、とにかくみんなが会社に入って、そこで出世を目指すという時代は終わったんじゃないかと思う。
その一方で、グローバルな競争が激しい分野では、向上心が今までの100倍求められるようになってきている。昔は中間的な、平均的な向上心というのがあって、それが尊ばれたわけだけど、グローバルエリートになるためには、それでは間に合わない。
渡邉:全然勝てないですね。
藤原:勝てない。ただ、向上心をそんなに高く持たなくとも、横展開に滲み出していくという道もある。これを何と言ったらいいのかな。向上心じゃないね。
渡邉:「向横心」でしょうか。何だかゴロがよくないですが(笑)。
藤原:何と呼べばいいんだろう? 日本語にはないのかもよ。仏教でいう涅槃(悟りの境地)でもないし……。
渡邉:そういうタイトルの本を出したら、結構売れるかもしれないですね。
藤原:前作の『坂の上の坂』をもじって、『坂の横の坂』なんていいかも(笑)。
渡邉:ただ、団塊の世代は、「向横心」をまったく理解できないでしょうね。出世に関する考え方は、世代間ギャップが大きいですから。
それに、若い人の中でも、バングラデシュに行くような突き抜けた人はものすごく特殊でしょう。ほとんどの人は、就活ですごく苦しんで、やっぱり大企業に入りたいと思っているような気がします。