渡邉:高校の職業教育に関してはどうですか? 現状ではまったく足りていないですか?
藤原:職業教育という以前に、頭を軟らかくする教育が行われてないの。つまり、小中高ともに、情報処理側の教育が9割になっていて、いろいろな物事をつなげる力、つまり、情報編集力側の教育が行われてない。簡単に言うと、4択問題をひたすらやらせる教育をいまだにやっているのね。
たとえば、『走れメロス』を読ませて、帰り道のメロスの気持ちに近いものを次の4つの中から選びなさいとか。こういう問題だと、次の4つの中に必ず正解があるという前提で答えるでしょ。その正解を速く正確に当てる力を情報処理力と呼ぶんだけど、授業でも試験でもそればっかりやっているわけ。
そういう教育を受けていると、社会に出るときに、「4つくらいの企業から内定をもらえば、そのうちの1つに絶対正解がある」と思ってしまうんですよ。そして、正解だと思って入った会社が、「正解じゃない」と感じたら、半年くらいで辞めてしまったりする。
私は「正解主義」から「修正主義」へと変わるべきだとずっと言っている。会社も変化するし、自分も変化する。だから、その変化する両者の間で、無限にベクトル合わせを続けるのが仕事だという感覚を持つべきなのに、それを理解しないまま大人になってしまう。すると、就職のときも、結婚のときも、正解を求めてしまう。そして結局、「あ、これ違う。これ正解じゃない」と迷っている間に、すぐ40歳になってしまうんです。
社会人がもっと学校に入るべき
だから、職業教育そのものが大事なのではなくて、その手前の段階で、「正解は必ずしもない」という「修正主義」の教育をすることが大事なわけ。そのためには、クリティカル・シンキング、つまり、物事を疑ってかかって自分の考えを修正していくような、ワークショップ型の授業が不可欠。でも、それが圧倒的に足りない。
ワークショップ型の授業の頂点にあるのが、サンデル教授の『白熱教室』ですよね。ああいうタイプの議論を通して、思考力、判断力、表現力を育むことの重要性は、文部科学省の指導要領でも強調されているんだけど、現状は、正解を教えるタイプの授業がほとんど。
本当は、小学校で1割、中学校で2~3割、高校で3~5割は、情報編集側の教育を行ったほうがいい。そうすれば、若い人たちが職業や仕事に対して、もっと軟らかく考えることができるようになると思う。
これからは、「こういう職業に就きます」ではなくて、「これとこれを組み合わせて、こういう仕事を創ります」という人生観が大事だと思うの。たとえば、ツアーコンダクターを5年やって、そのあと犬のブリーダーを5年やった人が、犬好きのおじいちゃんおばあちゃん向けのツアーを企画したら、きっと儲かるでしょ。
でも、学校ではそういう考え方を教えていない。そもそも、親の世代は1つの仕事で一途にやってきたから、それを教えられない。
渡邉:教師は、親以上にそんなことを教えられないですよね。
藤原:そう。だから教師が教える時間は、小学校で9割、中学校で7~8割、高校では5~7割にしてほしいわけ。教師は一歩下がって、その代わりに社会人がもっと学校に入ってくるべきなんですよ。
(撮影:梅谷秀司)
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