なぜ日本は「電子書籍の墓場」なのか(上) キンドルもまた墓場へ直行

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「もちろん、そんなことはわかっていますよ。しかしですね、デジタルをやっている部署の連中は、なぜ電子化をやるのかということを言わせると、いくらでも理由を見つけてくるんです。その理由を見つけてくるなかに、山田さんの本も含まれているんですよ」

この社長の出版社では、社長が紙人間だけに、しょっちゅう「紙人間」vs.「電子の人」の対立があるという。実は、日本のほとんどの出版社では、大小を問わず、社内でこのような対立が起きていると思う。

「私としてはね、できればデジタル部署なんて潰したいんです。なにせ毎月ン千万円の赤字の垂れ流しですよ。しかも、デジタルの人間は紙の編集者のように、売れる本を作ろう、本を売ろうという発想がない。紙の本を電子に加工しているだけ。それを仕事だと思っている。そうして、電子化を進めないと電子書籍時代が来たとき困る、他社に遅れてしまうと言うんですね。そんな時代、本当に来ると思いますか?」

電子書籍は紙のライバルではない

電子書籍時代? それはいったいどんな時代だろう?

紙の本より電子書籍のほうが読まれる時代。リアル書店がほとんどなくなり、本は電子書店で買い、電子書籍専用端末で読むのが当たり前になる時代。そんな時代が電子書籍時代だとすれば、この日本では、当面、そんな時代はやって来ないだろう。私はこう言った。

「いまはまだ圧倒的に紙。紙で徹底的に収益を上げるべきですね。で、余力があれば電子書籍をつくればいいじゃないですか。ないなら、様子見でいい」

「じゃあ、デジタルを潰してしまいましょうか」

「いや、それはちょっと……」

前回の記事でも述べたが、私は業界でただ一人「日本は電子書籍端末の墓場」説を唱えている。今回、日本上陸を果たしたアマゾン「キンドル」でさえ「売れない」と、これまで断言してきた。「キンドル」は11月19日に日本デビューを飾り、売り切れとなっている店舗もあるそうだが、私には、その勢いが続くとはどうしても思えない。

そもそも私は、電子書籍を紙の本のライバルとして捉えること自体が間違っていると思っている。電子書籍はデジタル時代に登場した「新しい表現形態」で、これまでの紙の本とは別のモノとさえ思っているのだ。

しかし、一般的には、紙の本がデジタル化されて電子書籍になると考えられている。そして、その電子化が日本では大きく遅れている。つまり、日本は「電子書籍後進国」と考えられており、この状況をなんとか打開すべきだという声が、圧倒的に強いのだ。

そこで、今回は、なぜ日本が電子書籍後進国なのか? その理由を具体的に示し、電子化を急ぐ必要があるのかどうかを考えてみたい。

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