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歴史学者・磯田道史が絶対伝えたかった史実 感動ドミノが生んだ映画「殿、利息でござる!」

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商人がどうやって武士から担保を差し押さえるかというと、領地から取れた米俵はいったん藩の蔵に入るので、そこから武士の家に行く前までに差し押さえるわけです。「この荷車が屋敷に入る前にここで差し押さえをさせていただきます」と言ったら、「さようか。その証文、しかと間違いないものであろうな。さすればこの米俵をそちらに渡してつかわそう」と。こういった手続きを踏む。普段から蔵役人に付け届けをしておいて良好な関係を築けるような、特殊な技術を持っている人しか武士には貸せないわけです。

それだけリスクがありますので、貸す方も高い金利になる。1割5分、1割8分、下手したら2割を超える金利もあったと思います。そういう意味では消費者金融のような無担保金利の相場というのは、江戸時代から変わらないかもしれませんね。

目先の利益より次世代のことを考えないといけない

当時の金貸し業は、借り手が困窮しないような配慮もしていたという (C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

――劇中に登場していた金融業者は、そこまで庶民を追い詰めなかったように思えたのですが。

彼らがどうして悪辣な業者になれないかというと、やはり彼らが閉鎖空間で暮らしているからですよ。水槽の中に巨大な魚やクジラが入っているのと同じで、吉岡宿という狭い世界の中で、後先考えずにあこぎな商売をしたら、おそらく農民たちはそこで家族の暮らしを営めなくなって、夜逃げしてしまう。宿場の景気がわるくなり、人口が減る。

そうすると彼ら自身の商売も先細りしてしまう。だから夜逃げしそうな人にはちゃんと優しくして、地元の信用も高めないといけない。そうしないとあんな環境が厳しい場所で長い間、商いを続けることはできないですよ。

ただ、そういったことが今の時代の企業になくなりつつあります。利益が出ていないと株主から言われてしまう。仕方がないので、従業員の給料を抑える。確かに労賃を削れば一時的にはやっていけるが、それで国民が貧しくなってしまうと、物を買える人が少なくなり、さらに教育費にかけるおカネも減らすようになって、結果、教育水準が低くなる。教育がなく知識も技術もなければ、金を儲けようがない。みんな貧しくなってしまう。

だからこそ企業経営者は、次世代のために、教育費ぐらい確保できる給与を保障し、家族が形成できるようにしないといけない。そうしないとこれからの日本は大変になってしまいます。

――彼らはこの偉業を「人に話すな」と、いっていたそうですね。

彼らが恐れていたのは、大事業を成し遂げたということで自分の家の格が上がったと思いぜいたくをしたり、自分の家柄を自慢するようになったりすることです。隠すことが目的ではない。むしろ彼らは、吉岡宿の繁栄を望んでいたはず。だから映画になったら、きっと吉岡の街に皆さんが訪れてくれるでしょうし、それによって街も豊かになるわけだから、きっと彼らも喜んでくれるでしょう、ということは子孫の方とも話し合いました(笑)。
 

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