シャープの失敗が映すニッポン電機の急所 【短期集中連載】冨山和彦氏に聞く(第1回)
すると投資の規模で勝負が決まるパワーゲームが始まる。そこでは、適切なタイミングで集中的に巨大な投資を……つまりは大バクチを打てる者が勝つ。このゲームでは、賃金や税金や部材が最も安い場所でつくるのが正しい。シャープのように国内生産(三重・亀山や大阪・堺)にこだわっていては勝ち目はない。
鴻海(ホンハイ)精密工業が出資したシャープの堺工場(現・堺ディスプレイプロダクト)の今後は、為替や物価水準、エネルギーコスト、国の税制といった環境要件のみで決まる。円が急に弱くなったら稼働率が上がり、そうでなければ稼働しない。残念ながらそれだけの話。どこの傘下に入ろうが、それは変わらない。
大バクチにはワンマン経営が必須
大バクチを打つために必要な条件はもう一つ、ワンマン経営であることだ。今のように熟議を尽くし、ボトムアップで物事を決める日本企業には、基本的に向いていない。日本の電機メーカーは、パワーゲームではノーチャンス。ワンマン経営は松下幸之助や盛田昭夫といった創業者の時代で終わっている。
日本の電機メーカーでも利益を上げている部門や事業には共通点がある。部品点数が多くて、メカトロニクスで、熱力学がかかわっている。デジタルではなく、アナログの世界であり、白モノ家電や、住宅設備機器などがそうだ。気象環境によって耐久性が異なるうえ、熱を加えたり水を使ったりとある種、過酷な使い方をする。
メカはいつか部品が磨耗し、熱変性を起こして壊れる。こうした分野では、蓄積された連続的なエンジニアリング技術の差をなかなか埋められない。ローテクっぽく見えるもののほうが、意外にテクノロジーとしてはるかに奥が深い。だから白モノはよその国から入ってくるのが難しい市場であり、ディフェンスの障壁が作れる産業である。