「M&Aベタ」の日本企業に欠ける超重要な視点 結婚もM&Aも、焦った側が「譲歩する側」に
そもそも、M&Aは経営戦略ありきだ。企業にはビジョンがあり、ビジョンと現状のギャップを埋めるために経営戦略がある。そして、実現したい経営戦略の手段としてM&Aがある。よって、第1回でもご説明した通り、経営戦略に基づき、M&Aの目的を明確にすることが何よりも重要である。
BDDは、単体としての稼げる力に加え、この「M&Aの目的の達成可否」を見極めるという意味で、非常に重要だ。「日本企業はM&Aが苦手」と言われるゆえんは、まさにここにある。つまり、M&Aの目的が不在、そしてM&Aの目的達成の検証が不足していると、個人的には考えている。
私の経験則で言えば、目的達成の可否を検証するためには、経験と素養が必要だ。目的達成の可否を判断するための論点を抽出し、その論点に対する仮説を構築、仮説ごとに検証方法を考え、重要なものから効率よく仮説検証を進めていく。まさに経営コンサルタントの力量が試される業務であり、個人のスキルによってBDDの成果の質は大きく変わる。
しかも、デューデリジェンスの期間は通常スケジュールが短く、時間との勝負でもある。M&A業界では、「BDDはコンサル会社に外注するのではなく、買収企業メンバー自らがやるべきだ」と主張する方もいるが、私としては、半分同意、半分反対である。BDDは信頼できるコンサルタントと協働して、慎重かつ徹底的に行うべきなのだ。
「あの買収は高い買い物だった」と後から言う企業に限って、BDDを疎かにしているケースが多い。高値買いの原因でよくあるのが、対象企業の企業価値を高く見積もり過ぎるケースだ。企業価値算定に関しては、世の中にいくらでも専門書が出ているので、興味があればそちらをご覧いただきたいが、多くの場合は、M&Aにおける企業価値は、基本的にこれらデューデリジェンスという「見極め作業」の結果を基に算定される。
財産と年収、結婚相手にどちらを求めるか
これまでにクライアントからよく聞かれた質問のひとつに、「FDDとBDDはどちらが重要なのか?」というものがある。たとえば、対象企業の財務状況は芳しくないが、将来的に稼げるポテンシャルがある企業と、反対に、対象企業の財務業況はいいが、将来的な稼ぎの伸びしろは小さい。こういった場合は、どちらの企業を選ぶべきかという問いである。
私の答えは、当たり前といえば当たり前だが、「度合いと買い手の考え方次第」である。結婚で置き換えれば、「貧乏で今は多額の借金があるけれど、将来有望な人」と「実家は大金持ちだけど、本人の稼ぎには期待できない人」は、どちらが結婚相手として相応しいかと聞かれているようなものだ。相手がどれぐらいの資産を持っているのか、どれぐらい将来有望なのか、そして、自分がどこまでの負担を許容するのか……。これら次第で意思決定は変わってくる。
たとえ相手が借金持ちだろうが、借金があれば即ダメというわけではなく、自分の貯金で帳消しできる範囲であれば、借金持ちだが将来有望な人を選ぶ可能性だってあるのだ。
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