「M&Aベタ」の日本企業に欠ける超重要な視点 結婚もM&Aも、焦った側が「譲歩する側」に

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最後に、ディール実行のフェーズの終盤にある条件交渉について触れる。デューデリジェンスが終わり、その結果をもとに企業価値が算定され、買収金額等の条件交渉が買い手と売り手の間で行われるが、条件交渉の中で金言句とされているのが、「自ら時間的制約を設けないこと」である。なぜならば、時間に余裕のない側が、条件交渉時において譲歩してしまうケースが多いからだ。

「XX月までに、この案件をクロージングしたい」と言ってしまったら最後、先方に足元を見られて、厳しい条件を突きつけられる可能性は十分にある。あるいは、案件成就に急ぐあまり、引くに引けず、本当は一緒になるべきではなかった企業と統合してしまうこともあるかもしれない。

転勤までに結婚しようと焦った結果…

やはり結婚でも同じことが言える。結婚を急いでいない相手に対して結婚を迫るならば、それ相応の見返りが求められてもおかしくはない。実際、私の知り合いにそういう者がいた。海外転勤が決まり、転勤する前に結婚がしたくて、彼女に急遽プロポーズを決行したが、本気度が足りないと言われ、3回もプロポーズをさせられ、あげく毎月の結婚記念日にプレゼントを贈ることを誓約させられたのだ。

これはまあ、ほのぼのエピソードではあるが、結婚を急ぐあまり、どうしようもないダメ男と結婚してしまい、すぐに離婚してしまったという話もある。どちらにせよ、自ら時間的制約を課してしまうと、M&Aでも結婚でも悪いことが起きやすいと考えたほうがいい。

ここまで、M&Aプロセスの2つ目である「ディール実行」を、「お付き合いからの結婚」になぞらえ解説してきた。まとめると、「基本合意書」によって、結婚を前提にしたお付き合いが了承されれば、各種デューデリジェンスが行われる。それらデューデリジェンスの結果をもって、企業価値が算定され、買収金額等の条件交渉が行われる。

そして、条件面の折り合いがつけば、M&Aの世界における“婚約”である「最終譲渡契約書」が締結され、問題なければ、めでたく「クロージング」、つまり“入籍”となる。企業によっては、結婚記念日のように、「統合記念日」として、全社的にセレモニーが催されることもある。つくづく、結婚とM&Aは似ていることを痛感する。

さて、次回はシリーズ最終回。見落とされがちだが非常に重要な、M&A後の”新婚生活”の在り方について触れてみたい。

第一回:企業買収は「結婚までの道のり」そのものだ

第二回:M&A、「相手選び」ですでに危うい典型パターン

第三回:M&A、対象企業の「ダメ要素」見抜く2つのツボ

田中 大貴 M&A戦略コンサルタント、MAVIS PARTNERS プリンシパル

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たなか だいき / Daiki Tanaka

早稲田大学商学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、その後、ジェネックスパートナーズ、マーバルパートナーズ(現PwCアドバイザリーのDeals Strategy部門)、ベイカレント・コンサルティングのM&A Strategy部門長を経て現職。一般社団法人ポストM&A研究会 代表理事、グロービス経営大学院にてファイナンス講師も務める。

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