夢の祭典「マスターズ」の知られざる経済学 トーナメント運営の舞台裏を検証してみた

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こうした物販以上にマスターズ委員会にとって大きい収入は、テレビの放映権料である。マスターズのテレビ映像はCBSが制作、同委に製作費を請求する。スポンサーであるIBM、AT&T、Mercedes-Benzからの費用で賄い、委員会はそれを海外向けに販売し2500万ドル(27億5000万円)を得ているといわれている。チケットや物販にこれらを合わせると1億1000万ドル(121億円)以上の収入となる。

参考までに、全米オープン(男子・女子・シニア)の放映権はFox Sportsが年間9300万ドル(102億3000万円)で契約している。2015年の最終日の視聴者数はマスターズ1110万人、全米オープン460万人で、マスターズの放映権は少なくとも1億ドル(110億円)の価値があるといわれており、全世界への放映権料は推定以上だとの指摘もある。

地域への波及効果も大きい

今度は支出のほうをみていこう。賞金総額は大会前には発表されていない。入場収入などから最終決定されるためで、大会期間中の土曜日に発表されるのが恒例だ。今年の賞金総額は1000万ドル(11億円)、優勝賞金は180万ドル(1億9800万円)であった。優勝総額をほかのメジャーと比較してみると、PGA選手権180万ドル、全英オープン150万ドル、全米オープン162万ドルで、高額賞金を出す大会でみるとさほど違いはない。そのほか、web費、マーケティング費、コース整備、警備、人件費等を含めて5000万ドルほどの支出があるといわれているが、収支はプラスとなっているのはまちがいない。

これらはマスターズだけでみた試算だが、地域への経済効果も大きい。マスターズ期間中に訪れるパトロンや観光客は25万人と言われている。オーガスタ近郊のホテルは満室となり、この期間は通常の10~20倍近い室料となる。また、住民が自宅を宿舎として1~3万ドルで貸すことも一般的だ。レストランも含めてこの地域への経済効果は1億1500ドル以上と言われている。

さらにマスターズに取材に来るメディアは300社以上の500人超。TV、新聞、雑誌、webを通じて全世界に情報を発信され、マスターズの知名度と価値向上につながっている。そのPR効果は計り知れない。それにより、マスターズが開かれるオーガスタの名前は世界中に知られており、マスターズはゴルフファーにとって一度は訪れたい大会となり、そのブランドを作り上げた80回の歴史はおカネでは代えがたいものとなっている。

数々の名勝負や、アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラウス、ゲーリー・プレーヤー、タイガー・ウッズらのスーパーショットは鮮明に記憶されており、語り継がれている。このようにみていくと、おカネに換算できない「価値と歴史」の点でもケタ違いなのがマスターズ。経済の視点だけで語ることは、意味のないことと言えるのだ。

嶋崎 平人 ゴルフライター

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しまさき ひらと / Hirato Shimasaki

1976年ブリヂストン入社。1993年からブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発、広報・宣伝・プロ・トーナメント運営等を担当、退職後、ライターのほか多方面からゴルフ活性化活動を継続。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。

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