少年スポーツを「成果主義」で測る"異様" 「勝つか、辞めるか」を子に迫る大人たち

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前出の池上さんは、1994年のW杯アメリカ大会でドイツ代表の選手が強制帰国させられたことに驚いたという。レギュラーだったその選手は試合中、罵声を浴びせた観客に対して中指を突き立てた。この行為によって、開催途中にかかわらず、エントリーから消されたのだ。

「ドイツという国はすごいと思いました。その選手を即座に退去させましたから。その選手がいないと困るとか、戦力ダウンなのにといった議論は、恐らくされていない。つまり、彼のやったことは明らかに間違ったことで、フェアプレーとは対岸の振る舞いをしてしまった。だから代表からは外すのは当然という感覚です。日本のスポーツ界も見習うべきでしょう」

ブラジルのサッカー選手が子どもにかける言葉

もうひとつ、池上さんから聞いたいい話。

ブラジルには貧困にあえぐ人たちの住むスラム街があるが、サッカーのプロ選手らはクラブの社会奉仕活動の一環としてサッカースクールを開く。子どもたちと汗を流した後、選手は子どもに声をかけたり、時にスピーチをする。

「今日は楽しかったね。ありがとうね。またやろうね」

ほぼ、このようなことしかいわない。

「みんなも練習を頑張れば、僕らみたいにプロになれるよ」

いかにも言いそうだが、そんなことは一切言わない。

「なぜなら、彼らはそんなこと思っていない。子どものうちはサッカーが楽しいと感じるだけでいい。自分もそうだったし、そこが本質だと理解しているのです」(池上さん)

ところで、冒頭の男性は試合後、女の子を呼び寄せた。

「7回ボールにさわったよ。コーチにそう言われたってママに報告してね」
「でも、3回しかさわってないよ」と女の子。
「大丈夫。その前の試合と合わせたら7回だから」

女の子はにっこり笑って、ボールを蹴りに走って行ったそうだ。
 

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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