少年スポーツを「成果主義」で測る"異様" 「勝つか、辞めるか」を子に迫る大人たち

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利益云々という問題ではなくて……。こちらの主張は、残念ながら聞き入れてもらえなかった。ひとつの勝利より大事なことをクラブに植え付けていくことを優先する価値を伝えたかったが、自らも勝利第一で指導を受けてきたであろう先生がたには、なかなか理解しがたいようだった。

ところが、そのような育成重視の指導をしてこなかった日本のスポーツ界は今、まさにその「ツケ」を払っているように見える。

「人間教育」を優先していては勝てないのか?

前出のシンポジウム後、柔道全日本男子の井上康生監督が世界選手権で「代表選手に重大なルール違反があった」として、自らが頭を丸めて記者会見を開いた。違反とは「チームの集合時間に複数回遅れた」ことだった。なぜそこまで、と思うだろうか。世界では、国の代表として世界舞台に臨むアスリートの行動としては許されるものではないのだ。

そして昨年は、巨人の選手による野球賭博が発覚。今年に入ると、以前から噂のあった清原和博・元プロ野球選手が覚せい剤所持で現行犯逮捕された。高額年俸で有名なプロ野球選手ばかりかと思いきや、リオ五輪で金メダルが期待された男子バドミントン選手らの違法カジノに、未成年のスノーボード選手の大麻問題。アスリートの不祥事が絶え間なく続いている印象がある。

そのため、ここへきて「アスリートの人間教育」が叫ばれるようになった。社会人にもなって、と罪を犯した選手を責めるだけで終わらせず、池上さんが説くように「勝敗や結果ばかりを重視する大人の弊害」を見直さなくてはいけない。

「エースでも遅刻したら外すんですか?」と憤るのではなく、「エースだからこそ外さなくてはいけない」と指導者には考えてほしいし、アスリートであるわが子をサポートする保護者も「スポーツで子どもの何を育てるか」を考え直してほしい。

このように教育や指導をめぐる議論になると、「でも、人間教育とか、楽しくサッカーしましょうっていうチームって結局、勝てませんよね」という声が聴こえてくる。

けれども、筆者がシンポジウムで紹介した女子サッカーチームはその後、発足10年目にして全国大会出場。卒団生もなでしこリーグで活躍している。

では、海外ではどのような価値観で選手を育てているのだろうか。

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