また、大阪錫器の商品は、価格設定も魅力的だ。「うちは生活に根差したものを選んでいるので、これが3万円だったら取り扱っていないと思う」と、鈴木社長も話すように、たとえば猪口なら4000円からと、安くはないが手が届くお値段となっている。だから、おじさんたちの「ご褒美買い」が多いのだろう。すべて商品は桐の箱に入れてもらえるということもあり、父の日や上司の退職記念など目上の人へのギフト需要も多いそうだ。
伝統工芸は止まったら終わり
大阪錫器の歴史は、古い。その昔、錫は金・銀に並ぶ貴重品だったため、宮中を中心とした公家社会など一部の特権階級のみに使われていた。その後、江戸時代に入り、武家社会を含む一般の人たちにも生活用品として普及し、生産地も京都から、経済や物流の中心だった大阪へと移っていった。この頃、京錫の流れをくむ初代伊兵衛が大阪に錫屋を創業したのが、大阪錫器のルーツだという。
株式会社化されたのは、昭和24年。現在、代表取締役を務めるのは、今井達昌氏だ。1999年に伝統工芸士の認定を受け、2012年には厚生労働大臣より「卓越した技術者表彰(現代の名工)」を受けた最高峰の現役職人である。
「今も一人前だとは思っていない。死ぬまで競争。自分の評価は死んでから」と語るように、まさに職人気質といった印象なのだが、経営者としての功績も大きい。今井社長が2002年に社長就任した初年度の年間売上は6800万円だったそうだが、2014年度には2億7000万円まで伸びているのだ。
秘訣は、時代に合わせた商品開発力にある。「伝統工芸は止まったら終わり」と、今井社長は強調する。先代もこうした考えで、20年以上前から若い世代への認知は徐々に広まっていたというが、今井社長は、さらに使用ニーズやライフスタイルの変化に合わせた商品を次々と作っていった。
そのひとつが、大ヒットとなった「シルキータンブラー」だ。現代的なシンプルなデザインを採り入れただけでなく、伝統工芸品の作り方を守りつつ工程に工夫を施し、最大40%のコストダウンを実現した。内側の模様がビールの泡をキメ細かくしてくれると評判で、中でもスタンダードサイズ(6000円税抜)は、4000種類もの商品の中で今一番人気となっている
無料会員登録はこちら
ログインはこちら