ノーベル平和賞のEU、欧州統合の歴史【2】

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英国のEC委員コーフィールド卿もドロールに全面協力を約束した。コーフィールドが中心となり、「単一市場完成に関する白書」を作成。その中で92年末までに297項目もの国境規制を撤廃する画期的な目標が打ち出された。項目には、貿易書類の複雑な書式や動植物の検査の国境規制廃止、安全、衛生、学位など異なる規格の通用の見直しも盛り込まれた。


(東西ドイツ統一を遂げたコール独首相、European Union,2012)

こうした膨大な規制撤廃のリストを手早く処理するため、ローマ条約を一部修正する「単一欧州議定書」が86年調印された。それまでECは、全会一致が原則で、議事停滞の一因となっていた。同議定書ではこの原則を改め、多数決制を導入。その結果、規制撤廃作業は様変わりのスピードで処理され、予定された92年末までに目標はほぼ達成された。

単一市場が実現し、人、モノ、カネが国境を超えて自由に動き出した。すると通貨だけ国境で交換を必要とされるのが煩わしくなる。為替の障害も取り除けないか--。通貨統合の可能性が、にわかに現実味を帯びてきた。

試行錯誤が続いた
通貨統合への道のり

ユーロ導入については、最初からロードマップが存在したわけではない。そもそも欧州経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約(57年調印)には、通貨統合についての項目はなかった。しかし時代状況が徐々に通貨統合を要請する。60年代後半以降、ドルの弱体化で、ドルを基軸とするブレトンウッズ体制が、徐々に時代にそぐわなくなってきた。金融市場はしばしば、ドル売りの投機に見舞われ、混乱した。

当時まだ6カ国だったECは、ドル危機の対策を検討。その結果、6通貨を統合し、単一通貨を導入することで、ドルの混乱に巻き込まれず、域内通貨の安定を図ることができるとの結論に達した。

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