震災で職を失いAV女優になった66歳の現実 日本の底辺でいま何が起きているのか

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「60歳過ぎてから、友達もどんどん自殺しているの。みんな死んじゃったから、私も死のうかなって。死ぬのがこわいってわけじゃなくて、自分を包丁で刺すのができなかっただけ。だって仕事もお金もなくて、ずっと空腹でしょ。そんなんで生きていてもしょうがないし、生きていく術もないし」

夕湖さんは台の下にあるビニール袋から手帳を取りだした。自筆の文字が綴られている手帳をペラペラとめくり、「これ友達、みんな死んじゃった」とあるページを見せてくれた。

友人らの名前とともに「電車に飛び込み」「投身自殺」「飛び降り」など、薄暗い電球の灯りからゾッとする文字が浮かぶ。地元の同級生や、東京でできた友人たちが60歳を超えて、続々と自殺しているようだった。あまりにも多すぎる。

逮捕、留置場、そして福祉

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「みんな60歳過ぎて、生きていけないから自殺しちゃった。苦しんでいるのは、私だけじゃないの。でも、私はみんなみたいに死ねなくて、ダメだと思った。どこまでもダメな人間だって。死ぬには首を切るのが一番でしょ。何度も何度も首を切ろうとしたけど、どうしてもダメで、包丁を持ったまま駅前の交番に行った。交番でおまわりさんに死ねなかった事情を話して、包丁を出したんです。そしたら刃渡りを測って、銃刀法違反で現行犯逮捕って。その場で手錠されて、逮捕された。なんか大騒ぎになって、パトカーで警察署の留置場に連れて行かれた」

腰縄をつけられて、10日間拘留。毎日、刑事と検事の取り調べがあった。何度も訊かれる「どうして?」という質問に、飲まず食わずで自殺しようとした、とそのまま同じことを話している。

「検事さんに『あなた来るところ間違っているよ』って言われました。警察じゃなくて、福祉でしょうって。検事さんは『事情が事情だから』って不起訴にしてくれた。書いてくれた保護カードを持って『福祉事務所に行きなさい』って。釈放されて、そのまま福祉事務所に行きました。保護カードを見せたらケースワーカーの人が事情を聞いてくれた。それで、すぐにお金が出ました。生活保護です。本当に助かりました。そのとき精神的にもおかしくなっていて、福祉事務所は精神病院も紹介してくれた。留置場では、全然眠れなかったし。精神病院には今も通院して、睡眠薬と安定剤をもらっています。それから、ずっと生活保護ですよ」

時給1000円のパートを解雇になって超熟AV女優、自殺未遂、留置所と遠まわりをして、ようやく福祉にたどり着いている。

日本の高齢者の貧困は餓死をともなうレベルになっている。夕湖さんのケースは氷山の一角で、現在は裸になってセックスを売っても、一時期が救われるモラトリアムに過ぎない。裸の世界は最後のセーフティネットとして機能せず、カラダを売っても最低限の生活すらできない現実がある。そして、追い詰められる人々の多くは生活保護制度を知らなかったりする。

「今は生きてはいける。けど、一人が寂しくてツライ。私は死ねないから、このまま死ぬのを待っているだけ」

最後、夕湖さんは溜息まじりに、そうつぶやいた。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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