シャーロック・ホームズの思考術に学ぶこと これは人生のバイブルになる本かもしれない

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また、この本では、ホームズとワトスンの思考術の対比が鮮やかだが、私たちが陥りがちなワトスンシステムを完全に否定しているわけではない。ワトスンとの会話のなかで、ホームズの思考は深まり、新たな発見につながるというのである。どうやらホームズもワトスンも、お互いが理想的な相棒であることをわかっているようだ。それを知ったうえで、ドラマを観ると人情の機微を味わう面白さは何倍にもなる。

本書の二人の対比をさらに鮮やかにしているのは、それぞれの心の状態をマインドフルとマインドレスという言葉で表現している点である。そしてそれは、ビジネスの視点からも本書を興味深いものにしている。Googleをはじめ欧米の一流企業が続々と導入しており、日本でも注目されている“マインドフルネス”。一度学んでみたいとお考えの方も多いだろう。また、ドラマのファンの方は、座禅を組んで瞑想するホームズの姿を一度はご覧になったことがあるだろう。

ホームズは、ハンターのように、難しい仕事を求めている。そしてそれを見つけたら、その一つの事に全力を傾ける。その事件に関するバイアスがかかってない情報を見極めながら収集し、想像して、推理する。その状態こそ、マインドフルなのである。その結果、解が導き出される。その解は、およそ常識的には考えにくいものであるかもしれない。場合によっては、多くの同情を寄せられている悲劇のヒロインが犯人である、という解もありうる。でも、それは正解なのである。

常識的にありえないことが、間違いだとは限らない

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常識的にありえないことが、間違いだとは限らない。ありえないと思うのはワトスン的な思い込みでしかない。何が事実で、何が思い込みなのか。それは、本書を読めばわかる。現代社会では、意識せずにいるとマルチタスクになることが多い。そしてこのマルチタスクは、マインドフルネスを排除する。ショートカットしようと考え、ワトスン的な思い込みで頭が占拠されるのだ。あなたは忙しい日々を過ごしながら、月並みな考えしか浮かばなくなってはいないだろうか、自分をすり減らしてはいないだろうか。マインドフルであれば、そのようなことはない。

私は、しっかりと本書を読む時間をとることで、そこから抜け出す術を見つけた。でも裏を明かすと、はじめてこの本を手にしたとき私は、架空の人物の思考術を分析して一体何になるのだろうと疑心暗鬼だった。それでも、私が読もうと決めたのは、この本が海を越えて単行本になり、日本でも多くの支持を集めて文庫本になったという、動かない事実だった。

吉村 博光 HONZ

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よしむら ひろみつ

夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。

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