経営学習論 人材育成を科学する 中原 淳著 ~新しい時代に合わせた上級者向け人材育成論

経営学習論 人材育成を科学する 中原 淳著 ~新しい時代に合わせた上級者向け人材育成論

評者 中沢孝夫 福井県立大学地域経済研究所所長

 プラグマティズムの祖、ジョン・デューイが「真実の教育はすべて経験から生まれる」と語った、と本書にある。なるほど、人材育成もさまざまな経験をさせることが基礎となるのは当然のことだ。日本企業に勤務するホワイトカラーの能力形成について、多様な角度から描いた本である。全体を概観する章からはじまり転職者やグローバル人材の育成まで8つの章に分かれている。説明は高度に抽象的な部分と、具体的な生の聞き取りとに分かれている。

最初にポストバブル時代の職場が「人件費抑制」と「成果主義の導入」により、「個人が他のメンバーの発達支援を担う」ことや「助け合いが消失」した余裕のない状況に陥っていることが浮き彫りにされる。あるいはIT化の進展により、「皆パソコンに向かって仕事をする状態が生まれ」「電話が鳴らず」職場から「喧噪が消え」た。そのことによりかつてのように、お互いの状況を「なんとなく知る」機会が減っているのだ。つまり「となりで、先輩が仕事の電話をする。誰と、どんな会話をしているのかな」「耳、ダンボみたいにしてね」といった「わいがや職場」が消滅しつつあるのだ。

むろん企業からOJTやOFF−JTがなくなったわけではない。新人教育をしっかり行うアサヒビールなどの事例も紹介されており、多くの企業は変わらず、導入教育を行っている。ただし本書によれば勤続10年くらいから「他者からの支援」は急速に減る。十分に一人前だからということだろう。本書はホワイトカラーを対象に調査しているが、評者のなじみの技術・技能の職場と同じである。

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