<激論 医療制度改革>間違った政策はこうして生まれた−−−高齢者医療・介護の第一人者と元政策当事者が真相を語る
さらに、06年に入り、法案提出直前の最後の最後になって、今度は同じ厚労省内の老健局から13万床あった介護療養病床を「全廃しようと考えている」と聞かされました。急きょ、保険局と老健局の間で調整が始まり、それぞれの動きをまとめて全体のストーリーを作成。その結果、療養病床の削減目標数が23万床へと一気に膨れ上がったのです。これが縦割り行政の帰結です。
吉岡 医療区分自体がそもそも療養病床廃止のために“つくられたもの”です。医療区分1すべてが医療必要度の低い社会的入院(※【3】)では決してない。さらに、医療区分ごとに極端な診療報酬点数格差がついたために、私の言う“生き地獄”的な病院が増えています。たとえば、人工呼吸器を20台も30台も買って、多くの急性期病院から植物状態に近い(医療区分の高い)患者をどんどん受け入れていく。長く生きれば病院側の利益になるからです。家族は最初こそ「生きていればいい」と思うかもしれませんが、言葉も何も伝えられない状態で入院を続けることにしだいに疑問を抱く人も多いはず。今回の医療区分の仕組みはそうした“生き地獄”を作ってしまった。
医療区分の“罪” 意図的操作の痕跡
介護療養病床の廃止も大問題です。24時間の医療体制を敷き、介護も手厚くし、症状が重度化しないようにと、私たち現場は自負を持って働いてきた。私は介護療養病床を「医療付きナーシングホーム」と言っていますが、こんな手厚い仕組みは世界のどこにもない。昔の劣悪と言われた老人病院から、ここまで進化してきたものを、なぜ残して育成しないのか。厚労省の医系技官は現場をあまりにも知らなさすぎます。
村上 医療区分にはさらに重大な矛盾もあります。医療の必要性が高い医療区分2と3の患者は療養病床として残し、必要性が低い医療区分1の患者は老人保健施設(以下、老健施設)など介護施設に移ってもらうという話の中で、医療区分2であっても、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)、うつ病態、皮膚の潰瘍のケアと創傷処置の四つに該当する患者だけは「老健施設で面倒を見ることができる」として削減病床数をはじき出した。平均在院日数短縮目標に合わせるために、医療区分に手を加えたのです。実際の患者や医療現場を知らないかどうかはともかく、数字に追われて非常に単純に決めてしまったと言わざるをえません。
23万床削減の根拠として、この数字合わせについては国会でも局長らが答弁しています。普通、医療の必要性で分けるといいながら4項目だけいじるなら、医療区分とはいったい何なのかという疑問が湧いて当然ですが、国会審議でも通り一遍の説明の後に答弁に窮するような二の矢、三の矢が全然飛んでこなかった。
吉岡 お年寄りの命にも関わる問題なのにとても安易ですね。でも医療区分が巧妙であいまいだから、与党も野党も納得させられてしまったのではないか。本来なら、最低でも50~100のモデル地域を作り、数年かけて医療区分の整合性を確かめ、介護療養病床も本当に必要ないのかどうか検証すべきでした。
誤解がないように申し上げますが、今度の医療制度改革の最終ゴールは決して間違ったものではありません。人生の終末期を病院で迎えるのではなく、往診や訪問看護を通じて家族が在宅で看取る(※【4】)のはいいことだと思います。ただ、それには10~15年かけてジェネラル・フィジシャン(総合医)、本当の意味でのかかりつけ医の養成が必要です。国は拙速で早急すぎる。介護型療養病床を老健施設に転換したところで、1人1カ月10万円くらいの費用削減にしかならない。
医療費の無駄遣いはほかにいくらでもあります。たとえば薬の多剤投与。お年寄りは薬を山のようにもらっている。患者は「こんなに飲んだら逆に病気になる」と思っても、お医者さんが怖いし悪いからと断れない。簡単に捨てられないから、自宅には未服用の薬がいっぱいある。獣医とタイアップして、薬の回収事業を始めたら相当集まるし、いろいろなことがわかるのではないでしょうか。使えるものは動物向けに再利用すればいいと、まじめに考えています。また、CTスキャンのような医療機器も過剰です。その一方で、IT時代なのに、医療機関間で撮影データを共有できていない。
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