<激論 医療制度改革>間違った政策はこうして生まれた−−−高齢者医療・介護の第一人者と元政策当事者が真相を語る

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 村上 私も、医療制度改革が目指していた方向性はそれなりに正しいものだったと思います。患者負担引き上げでは、高齢者の中でも現役並み所得者など、対象者はなるべく限定的になりました。「サラリーマン3割負担」のような大幅な負担増は抑え、むしろ健康づくりの促進(※【5】)や熊本のクリティカルパス、尾道の地域連携方式による在院日数の短縮を目指すというやり方です。

ただ、問題はもう一つあって、政策を決める際に、サンプルデータに過剰に頼りすぎていました。役所も国会でも、データの不完全性を認識して議論しないと、政策導入後の歪みが大きくなってしまいます。

医療区分がまさにそう。これも導入前にサンプル調査を実施して作られたわけですが、実際に導入してみたら医療区分2と3の割合が、導入前調査よりも増えていた(※【6】)。それなら療養病床削減後15万床という計画目標も実態に合わせて変えるのかというとそうではない。前後がきちんとつながっていません。

吉岡 役所の方々はデータの不確かさは認識している思います。それを承知のうえで、政策上のゴールとのつじつま合わせをしようと、机上でまとめた作文行為なのでしょう。

本誌 療養病床の受け皿として「介護療養型老人保健施設」(下図)が新設されました。療養病床関係者の意向を踏まえて創設したと厚労省は述べていますが、これで問題は解決しますか。

吉岡 全然お話にならない。まず医師配置が1人では、医師不在の時間が長すぎ、入居者の看取りや症状急変に対応できません。医師を24時間常駐させるには、3人配置が必要です。また、介護度が重い入居者には、“介護療養型老健”の「看護6対1+介護6対1」では対応が難しい。われわれ現場が、これまでの介護療養病床と同じ「看護6対1+介護4対1」が必要だと訴えたため、その基準も当面残すとしながら加算は1日270円とわずかしかつきませんでした。国は「手厚くしてもいいが、報酬はやれない。皆さんで勝手にやってくれ」という姿勢です。

来年の介護報酬が減ることは当然予想されます。経営は厳しくなるでしょうし、スタッフは疲弊する。そして多分、勤勉に働く介護職は辞めていくでしょう。25年前の老人病院がそうであったように。病院崩壊に続き、介護施設も崩壊していく。

国は「老人は状態の変化が少ないから医師はあまり必要ない」と言いますが、実際は、睡眠導入剤の使用ひとつとっても、副作用が出ないかを医師はつねに見守っています。ちょっとした変化のサインも見逃さない。だからこそ、お年寄りは惨めな死に方をしなくても済む。今の老健施設、特別養護老人ホームでは、必ずしも介護療養病床で行われているような医療の質が担保されておらず、看取りを委ねるのは無理です。

有料老人ホームなど、療養病床の受け皿には民間企業も参入してくるでしょう。きちんと利益を現場に還元する企業もあるでしょうが、介護報酬がだんだん低くなっていく中で利益追求ばかりが行われたら、当然、虐待が起きます。ペットの檻に患者さんを入れておく。地震対策の金具みたいなものでベッドにくくり付ける。入浴もさせずに利用者を縛り付ける。すでに有料老人ホームではこういう施設が出現していますが、これを僕は新しい“姥捨て山”と呼んでいる。早く死んで、回転がよければいいと。これでは本当に昔の悲惨な老人病院に戻ってしまう。だからこそ、僕は介護療養病床の存続を最後まで叫び続けます。

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