<激論 医療制度改革>間違った政策はこうして生まれた−−−高齢者医療・介護の第一人者と元政策当事者が真相を語る

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国の止まらぬ暴走 自己修正もきかず

本誌 08年診療報酬改定では、医療療養病床の点数も引き下げられました。中医協の慢性期入院医療包括評価分科会は「点数設定に科学性がない」と指摘(※【7】)しましたし、医療崩壊を危ぶむ声が国民や医療関係者から上がりました。厚労省はなぜ失敗を認めていないのでしょうか。

村上 ワイドショーでも相当取り上げられた産科、小児科は今回、点数上の評価を手厚くしました(※【8】)。それと比べて療養病床は、国民の問題認識が比較的低いために軌道修正がなされませんでした。特に、役所は間違いというのを認めない傾向がありますので、財政再建至上主義が見直されるなど大幅な政策の修正がないかぎり、大きな変化は期待できません。

吉岡 今の政策は、元気なお年寄りはもっと元気でいてください。病気になったり弱いお年寄りは早く死んでくださいということです。運が悪い人は早く天国に行ってくださいと。国民が、この真実を知ったら怒りますよ。年金が消えてしまったのと同じように。医療制度改革法案が可決された後に、われわれは札幌と京都で患者家族に療養病床再編の是非をアンケートしましたが、いずれも9割以上が反対でした。

村上 審議会が隠れみのに使われている面もあります。審議会の事務局は役所だし、提出資料も役所が準備する。ちょっとした言葉遣いは役所が思うように手を入れることができます。審議会の言ったとおりやらなくても、役所が押し切ろうと思えば押し切れる。ある意味、審議会でそれなりの答申をまとめてもらえれば、法案を正当化するときに使えるというだけのものです。

2年前の社会保障審議会の医療保険部会でまとめた意見書の中身は、全部両論併記でした。日本医師会、健康保険組合連合会、日本経団連、地方自治体、学者がいる中で意見がまとまるはずがない。高齢者医療制度にしても、保険者を再編統合にしても「こんな意見が多かったが、こんな意見もあった」とずらずら書いてある。つまり今回の医療制度改革では、審議会はほとんどあってないようなものだったのが実態でした。

今、首相官邸に社会保障国民会議がつくられているけれども、ああいうところで議論しているだけでは、まったくこれまでと変わらない。最後は消費税引き上げに結び付けていく狙いがうっすらと見えてもいる。社会保障財源の話も必要ですが、高齢者にとっての生や死とは、そして、家族とはという議論をしたうえで、医療、介護のあり方を考えていかないと思います。

吉岡 1年くらいかけて、やらせではないタウンディスカッションをいろいろな所で行い、国民も啓発され、議論を成熟させていくのは一つの方法ではないでしょうか。

村上 あまり指摘されていませんが、今後、各都道府県ごとに医療費適正化計画を立て、その中で平均在院日数の短縮目標を作ることになっており、平均在院日数が目標どおり減らなかったときは、都道府県ごとの診療報酬の設定ができる仕組み(※【2】)になっています。目標未達の都道府県は入院に関する診療報酬をほかの県に比べて下げることができるという仕組みが、06年の医療制度改革で決まったのです。県境近くに住む人は隣の県の病院に行ったりするので、どこまで意味があるかはわかりませんが、強力な医療費抑制の仕組みが導入されています。

しかし、GDP対比などの国際比較で見た場合、日本の医療費は決して高くないのが実態です。社会保障は国民の生活の根幹ですが、このままでは国民が安心・安全を感じられる状況でなくなっていく。国全体の財政の配分、国民にとって何を優先するかを決めるのが政治であり、行政ではないでしょうか。

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