日銀短観の為替前提が示す目先の波乱要因 「気概」が感じられない日本企業が心配になる

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以前の日本企業は、円相場に限らず、エネルギー価格や海外の需要など、最悪のことが起こるという前提を立てて、それでも利益が出るようにと、血のにじむ努力を重ねてきた。今の日本企業は、そうした「気概」を失ってしまったのだろうか。あるいは、今の円高を「なかったこと」にしたい、という心理が働いているのだろうか。仮に今の円高が続いても頑張って経営しよう、ということではなく、きっと円安になってくれるに違いないと、手を合わせてお祈りしているのだろうか。

記者会見からにじみ出る企業の姿勢

先日、三菱商事と三井物産が、資源関連ビジネスに関する大幅な減損処理を計上し、赤字に陥る、と発表した。この件はアナリスト仲間の間で極めて評判が悪いが、それは単に大きな赤字を出した、ということではない。両社の記者会見で「エネルギー価格が下がったのだから仕方がない、当社は悪くない」という姿勢がにじみ出ているように感じられたからだ。

資源プロジェクトの当初の採算見積もりが妥当であったのか、という問題もあるが、資源価格の大幅な上下動は過去にも頻繁に生じたことだ。見込みと異なる方向に投資環境が大きく振れることもありうる、と想定して管理する体制が欠けていたのではないか。両社において、資源価格下落を「なかったこと」にしたいのでは、と感じられてしまう。

韓国や台湾、中国企業などに比べ、今の日本企業はハングリー精神を欠いているとも言われる。さらに前述の事象は、環境に甘える、あるいは逆境を想定せず、逆境に遭遇すると、なかったこととして目をつぶっているように見える。こうした気概の欠如は、企業だけではなく、社会全体の問題のようにも思える。

経済は、政府や中央銀行の政策で回っているわけではない。民間企業がこの体たらくでは、この国の将来はない。この点は、今週、今月や今年度の株価がどうか、という時間軸ではない。ただ、日銀短観の為替前提に日本の企業や社会の根深い問題が表れているとすると、たとえば5年後に、日本株への証券投資のみならず日本への直接投資も含めて、日本は投資するに値しない国だ、という評価が定着し、誰も顧みない国に堕しているかもしれない。こうした危機感が、今、必要だと思う。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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