小宮山 宏・三菱総合研究所理事長、前東京大学総長--『課題先進国』の日本、先頭を走る気概を持て
東大には「知の構造化センター」というのができている。実験を通じて知を社会の価値につなげていくことが重要なのです。日本はモノづくりが得意だが、大事なことはモノづくりだけではダメ。なぜかっていうと“奴隷”になる。社会システムは日本以外の国が決めてしまい、それを作るだけになるからね。
--社会とのつながりが重要なのですね。
未来は演繹的に決められない。必ずこれは高齢化社会に役立つと言っても、そうなるかはわからない。高齢者がどんなものが欲しいのか、想像を超えるところがある。アンケートを取って、家庭にロボットが必要かと聞く。料理ロボットはいらないが、片付けロボットが欲しい、という結果が出る。では、どういう片付けロボットを作るのか、という話になったらば、実験が必要なのです。この仕組みがまだ日本にはない。
--実験はどこが主体となって進めるべきなのでしょうか。
そこが核心なのですよ。誰が主導権を取ってもいいと思うが、国はやりそうもないよね。地方自治体は一つのカギ。基本的には、やる気があるところがやっていけばいい。各県1個ずつ実験して10くらいがうまく動き出せば、「まずい」と思って動く自治体も出てくると思いますよ。
もう一つのポイントは、企業が社員の低炭素化を支援する仕組みづくりです。日本は45%のCO2がモノづくりから出ていますが、残り55%は人々の暮らしから出ている。こちらをどう減らすか。個人の責任、自覚が問われる時代です、なんて言ってもダメ。たとえば、企業がCSR(企業の社会的責任)の一環として取り組む。社員が低炭素化のために家をリフォームしたいときに融資するなどです。そんな仕組みが動き出せば、一気に進むと思いますよ。
--促進するには資金が必要。
資金はいらない。低炭素化というのは回収できる初期投資なのです。古い冷蔵庫を新しい冷蔵庫に買い替えるっていうのは低炭素化ですよ。それで、僕の家だったら7年経つと回収できる。電気代が安くなるっていう形でね。そもそも日本の企業が省エネ投資に注力したのは、エネルギー効率が高まることで投資回収できるからです。