誰から取り、誰に与えるか 格差と再分配の政治経済学 井堀利宏著 ~所得再分配政策はどうあるべきかを考える
小泉構造改革が格差を拡大したとして批判され、与野党ともに弱者への対策を重視し、所得再分配政策を強化しようとしている。しかし、財源に限りがある以上、無制限に所得再分配政策を拡充することが望ましいとはならない。
本書は、どのような格差が問題なのか、格差は拡大しているのか、格差はどこまで是正すべきか、また、再分配政策はどこまで有効なのかという問いに答え、望ましい格差是正策を提言している。
本書の結論は以下のようである。公平な再分配政策のためには個人の経済力を把握する必要がある。自助努力を促すために保護の期間を特定し、再分配によって人々の行動が変化することを考慮すべきである。再分配政策が過度であれば、人々は働かず、教育を受けず、投資をしないようになることも考えられる。再分配が、より豊かな人に向かわないように留意すべきである。
平均的な高齢者と平均的な勤労者を比較すると、所得、資産ともに高齢者のほうが恵まれている。公的年金や医療保険を通じて貧しい勤労者から裕福な高齢者に再分配が行われているのは不公平である。地域間の再分配は何を目的にするかを明確にしないと、貧しい地域の豊かな人に所得再分配をすることになり、弊害が大きいなどである。
いずれももっともであり、実態を深く分析した上での指摘であるだけに、説得力がある。ただし、あえて言えば、せっかくの実態把握を簡明な図表で示せば、より読者にとって親切であったと思われる。