誰から取り、誰に与えるか 格差と再分配の政治経済学 井堀利宏著 ~所得再分配政策はどうあるべきかを考える
さらに評者が感銘を受けたのは、大胆な政策提言である。年金については、報酬比例部分については親世代全体の給付に回すのではなくて、自分の親に限定して、その給付に充てる。親が死亡すれば子供は保険料を免除される。この制度では、子供がいなければ基礎年金しか受け取れないので、子供を産み、きちんと育てる誘因になるという。
また、地方交付税を地域住民に直接配分して、地方はその分を地方税の形で追加徴収せよという。これによって、住民は自治体のサービスがどれほど適切であるかを判断できるという。所得再分配政策を求めるロビー活動の分析も興味深く、ロビー活動の生じにくい制度として地方分権を推奨している。その理由は、地域を超えた所得再分配政策ができなくなるからであるという。
多くの読者は、非現実的な提案と思われるかもしれないが、これらの提案によって、現行制度の欠陥があらわにされる。再分配政策がどうあるべきかを考えるための必読書である。
いほり・としひろ
東京大学大学院経済学研究科教授。1952年生まれ。東京大学経済学部卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程修了(Ph.D.取得)。東京都立大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授・同教授などを経て、現職。
東洋経済新報社 1890円 253ページ
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