北朝鮮制裁、米中の主張がかみ合わない理由 平和協定交渉は、必要なのか不要なのか

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最近、米国は裏で平和協定交渉について一定の検討を行っていることを示唆する出来事があった。昨年秋の国連総会で北朝鮮の外相が平和協定交渉を提案したのに対し米国は取り合わなかったが、それから約2カ月後、非公式に、しかも、外交の常識を無視した異例の方法で、今度は米国から平和協定交渉の開始を北朝鮮側に打診したのだ。

詳しい事情は公になっていないが、北朝鮮に対して一種の問い合わせをしたことは米国自身認めている。

米国が北朝鮮との平和協定問題になかなか向き合えないのは、米国が中東の諸問題に忙殺されており、リソースも限られているので北朝鮮問題にあまり深く介入したくない、中国は北朝鮮に強い影響力を持っているので協力してほしいと考えているからだろう。

日本はどのように臨むべきか

北朝鮮に核兵器とミサイルを放棄させるためのカギである制裁決議と平和協定交渉について日本はどのように臨むべきか。現実問題として、米国が制裁決議一本やりの姿勢を崩していないときに日本が米国とかけ離れた主張をすることは困難だろうが、これには上述したように裏がありうる。しかも、北朝鮮に核兵器とミサイルを放棄させることは米国にとっても好ましいことであり、その点で日米の立場は共通である。米国が平和協定交渉に本腰で取り組むよう説得するのは日本の役割といえるだろう。

一方、韓国は、北朝鮮と口を極めて非難合戦を行う中で制裁決議の範囲を越える行動をとっている。朴槿恵大統領が北の核実験直後、「相応の代償を北に払わせる」と、めったに聞かれない言葉で北朝鮮を非難したのを皮切りに、核実験の2日後、韓国は中断していた北に対する軍事宣伝放送を再開した。そのことだけでも北朝鮮は非常に嫌がるそうだが、韓国側は、「金正恩は指導者として能力不足だ」「100人超の幹部を処刑した」などと金正恩第1書記個人に的を絞った攻撃を行なっている。

このような姿勢を示す韓国に北朝鮮が強く反発し、朴槿恵大統領のことを「老いぼれた雌犬」と呼んだ。そうすると朴大統領自身も金正恩第1書記を呼び捨てにするなどさらなる舌戦に発展している。こうなると、どちらが挑発しているのかよく分からない、混沌とした状況になってしまった感があるのだが、ともかく、韓国による金正恩第1書記個人への攻撃は目立っている。

南北は、これまで協力関係を進めてきたこともあれば、対立してきたこともある。今回起こっていることが収拾されるか、また、どのような形で収拾されるか。南北双方にしかわからないこともあるだろう。日本としては、そのような対立が早期に、穏やかに収拾されることを望む以上のことはしにくい状況にある。

韓国は最近まで中国との関係を重視し、また北朝鮮に対しては融和的な態度をとってきたが、昨年末ころから日米との協調路線へ舵を切り、また北朝鮮に対して厳しい態度で臨むようになった。このような韓国の外交方針の転換は歓迎すべきことだが、北朝鮮に核兵器とミサイルを放棄させるという大きな目標達成の努力との調和が必要だ。韓国が北朝鮮と過度に対立しているのであれば、日米両国は南北双方に対して矛を収めるよう説得すべきである。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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