震災から5年、被災者に牙をむく「防災道路」 宮城県山元町で起きた復興事業の不条理

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宮城県亘理町で建設が進むかさ上げ道路。山元町でも同じような道路が計画されている

取材を進めてみると、かさ上げ道路の予定地を現在の県道と同じ場所に設定していれば、多くの住宅が海側に取り残されたり、立ち退きを求められることがないこともわかった。そのうえで、5メートルよりもさらにかさ上げする方法もあるように思えた。というのも、隣の福島県新地町ではかさ上げ道路がより海に近い一方で、高さが約7メートルに設定されているからだ。

しかし、山元町内での計画では、かさ上げ道路が現在の県道よりも500メートル近くも内陸側になるうえ、高さも5メートルにとどまる。このようにルートを設定した理由について宮城県では「山元町の復興計画に従った」(土木部道路課)という。一方、本誌記者の取材に応じた齋藤俊夫・山元町長は「県やJRと話し合って決めた」と説明する。いずれにしても、住民が蚊帳の外に置かれていたことは確かだ。

2020年の被災地

津波被害を受けた住宅を修繕して生活する被災者は「在宅被災者」と呼ばれる。津波浸水エリアの多くが災害危険区域に指定された中で、在宅被災者は「自分の都合で危ない場所に住んでいる」とみられがちだ。しかし、多くの在宅被災世帯は住宅ローンを抱えていたり、介護が必要な高齢者がいたりして、簡単に住居を移すことができない事情がある。しかし、そうした事情が考慮されるどころか、山元町ではかさ上げ道路を集落よりも内陸側に建設することで危険なエリアに少なからぬ住民が取り残されようとしている。

県道路課によれば、かさ上げ道路の事業終了時期は「遅くとも2020年度」という。東京オリンピックが盛大に開催される頃、被災地では住民泣かせの不条理の象徴が完成する。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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