カワサキのオートバイがアメリカの大型車市場でトップとなれたのは、前回述べたように、現地のニーズを知る人材の知恵と販売力に、日本の技術をミックスした「二文化経営」が実現できたからです。しかし一方で現地化を進めれば進めるほど日本とアメリカのギャップが増幅することに手を焼いた私は、この体験を生かして異文化経営のプロになりたいという気持ちを強めました。その後、米国川崎重工業社長のとき、ドイツのBMWから声がかかり、思い切ってBMWジャパン社長の職を引き受けました。
BMWでの強烈な印象は「エクスクルーシブ」、つまり徹底した差別化のフィロソフィーでした。BMWは高級車に特化していますが、ベンツとは徹頭徹尾、一線を画す製品開発を進めていました。
BMWのクーンハイム会長(当時)は「われわれは最大であることは望まない。最上であれば十分だ」と語り、世界で1%のシェアを取ればよい、ただしどの国でもトップエンドの1%であるべきだという目標を掲げていました。だからシェア争いに関心は薄く、「量は手段であり、利益が目的である」ということが明確に打ち出されていました。価値の高い商品に集中投資し、少ない資本でたくさん儲けようというのです。
日本企業も「水道」から「宝石」へ
松下幸之助さんは「水道哲学」を語り、蛇口をひねれば水が出るように、「誰もが」電化生活を楽しめる世界を広げました。これに対しBMWは「少数の人」向けでよいから「宝石」のような究極の車を提供することをミッションとしていました。
その背景にはドイツの消費者が一足先に豊かになっていたことがあります。今は日本も同じ、日本企業も「水道」から「宝石」へ転換する必要があると思います。
また、BMWは生産能力の拡大に極めて慎重でした。商品の差別化で顧客を虜(とりこ)にすれば納車が遅れても待ってくれるという考えによるものです。日本企業は売れる商品があるとすぐに能力増強に走りがちですが、それが結果としてバブルにつながったのは苦い経験でした。
今のアメリカ発の世界不況は、実需を上回る住宅ローンの供給が引き金です。過剰供給はつねに市場の復讐を受けます。経営者は「腹八分目」でブレーキをかけることが大切です。今回の不況で日本の鉱工業生産は、3割強も減少したのに対し、ユーロ圏は2割弱の減少にとどまっています。量の拡大はつねにハイリスクを伴うということを、経営者は改めて肝に銘じるべきでしょう。
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