地球全体を幸福にする経済学 過密化する世界とグローバル・ゴール ジェフリー・サックス著/野中邦子訳~“行動する経済学者”による「新しい臨床経済学」
評者がサックス教授と最初に会ったのは1981年、ハーバード大学のファカルティ・クラブであった。当時まだ20代だったサックス教授は異例の早さで同大学のテニュア(正教授)のポストを手に入れていた。同じ20代で同大学のテニュアを得て、後にクリントン政権の財務長官になったローレンス・サマーズ教授と並んで、将来を嘱望される若手経済学者だった。
だがサックス教授は専門の国際経済学の研究に留まらず、南米やロシアの政策顧問などを歴任するなど、常に現実の世界に深く関わる行動する経済学者であった。最近では気候変動や人口問題、途上国の貧困問題などに取り組んでおり、現在も国連ミレニアム・プロジェクトのリーダーを務めている。
本書は、そうした“行動する経済学者”の本領をいかんなく示している。前著の『貧困の終焉』(早川書房刊)では途上国の経済発展と貧困の問題に切り込んだ。前著でも、また本著でも同教授は、理論と実践、一般原則と個別状況を組み合わせる「新しい臨床経済学」の必要性を説き、学問分野の横断的な協力が必要だと主張している。そうでない限り、世界が直面する問題に対処できないというのが、同教授の主張であり、本書のメッセージのひとつである。
現在、世界は環境、人口、貧困などで深刻な問題に直面している。こうした問題を解決するには、政府が積極的な役割を果たす必要がある。だが「市場経済において自己組織力を導くには社会正義と環境への責務を視野に入れた包括的な基本原則が必要」だが、そうした理解はまだ国際社会に根付いていない。