ワイン造りの思想 その1 ワインの質の決定要因《ワイン片手に経営論》第12回
■ブドウ品種かテロワールか
次に「テロワール」とは、そのブドウの木が植えてある土壌、気候、日射量などのその土地固有の風土的な環境要素を表す概念です。この概念は、使う人によって広さが異なっている場合があり、時にはその土地の文化・価値観なども含めて考えることもあります。「テロワール」は、様々な土地のレベルで考えることが可能で、「ボルドー」「ブルゴーニュ」といった地区レベルから、「ヴォーヌ・ロマネ」といった村レベル、そして、「ロマネ・コンティ」といった畑レベルまで、概念の使われ方は多様です。一般的にワイン用ブドウの栽培に適しているといわれる土壌には、石灰質土壌、砂礫質土壌、粘土質土壌などがあります。気候は、冷涼で、適度に乾燥した地域が良いようです。湿気はワイン用ブドウには大敵で、ブドウのカビの原因となったり、出来上がったワインが過剰な水分により水っぽくなったりします。また、乾燥した土壌だと、ブドウの木の根っこが、水分を求めて地中深くまで根をはり、様々な地層の栄養を吸い上げるため、こうしたブドウから出来上がったワインは、複雑で豊かな香りを持つとされています。
最後に「造り手」ですが、畑でブドウの木を育て、ブドウを収穫し、醸造、熟成を行っていく人を指します。有名な造り手としては、シャトー・ラトゥール、ロマネ・コンティ、ロバート・モンダヴィなどが挙げられます。当然、造り手が違うと、ブドウの木の育て方、収穫方法、醸造方法、熟成方法が異なってきます。結果、異なる味わいのワインとなります。ただし、造り手の本質的な仕事は、ブドウ本来のポテンシャルをいかにワインとして引き出すかであって、ワインをゼロベースで作り出すことではないと考えられます。結果、造り手は、呈味(ていみ)(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)成分の調整と、品質の安定化が主な仕事になります。
呈味成分の調整とは、ブドウの酸味や糖分の調整などです。調整は補酸や補糖といった人工的なやり方もありますし、ブドウの成長とともに変化するブドウ内の酸度や糖度を測定しながら収穫時期をコントロールするという自然なやり方もあります。品質の安定化とは、空気による酸化防止や、有害な微生物汚染による異味・異臭防止といったものです。
さて、これら三つの「ブドウ品種」「テロワール」「造り手」のうち、どれがもっともワインの質に寄与するかが最初の問題でした。 当然三つともしっかりしていないとワインを造ることが出来ないのですが、三要素の質への寄与度に濃淡があるとしたら、どれが一番濃いかという判断は、ワイン造りのあり方はもちろん、ワインビジネスそのものも大きく左右します。ワインの造り方、投資すべき対象、採用すべきスタッフ、マーケティング・アプローチがおのずと異なってくるのです。
三つの要素のうちどれが最大の決定要因かは、先ほども申し上げた通り、よく分からないのですが、少なくとも、「造り手」である人間は、自然を超えることはできないと一般的には考えられています。すると、重視すべきは、「ブドウ」または「テロワール」のどちらかという話になってきます。
実は、この「ブドウ品種かテロワールか」という議論が、ワイン業界において、ここ30~40年でにわかに起こってきた議論であり、ワインの歴史上画期的なことなのです。
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