「君が代」は、なぜいつまでも議論になるのか

最大の問題は日本人自身の中にある

つまり、「君が代」斉唱は「日の丸」掲揚に比べ、抵抗や反対が根強かったのである。ここ近年の国旗国歌問題は、事実上「君が代」斉唱の是非に争点があったといえるだろう。2013(平成25)年に大阪府教育委員会より全府立学校に対して出された「口元チェック」の通知も、「日の丸」は問題にしていなかった。

このような「君が代」だけに存在する違和感の中に、「君が代」問題の本質も隠されているのではないだろうか。

「君が代」問題の争点

では、実際に「君が代」の何が問題視されていたのだろうか。ここで「君が代」斉唱に対する賛成派と反対派の意見を見てみよう。

両者の対立は、1950年代に文部省が戦後しばらく絶えていた学校における「君が代」斉唱を復活させようとしたことに端を発する。この一方的な施策に対し強く反発したのが、現場の教職員からなる日本教職員組合(日教組)だった。従って、乱暴なことを承知の上で敢えて図式化すれば、賛成派の中心は文部省とそれを支持する保守派、反対派の中心は日教組とそれを支持する革新派(リベラル派)ということになろう。

まず、反対派の意見から主だったものを紹介したい。

① 「君が代」の「君」は「天皇」を意味し、従って「君が代」は天皇とその治世を讃えた歌である。戦前ならばこれでもよかっただろう。しかし、国民主権を原則とする「日本国憲法」の下では、到底公教育の場にふさわしい歌ではない。
②戦前、学校における「君が代」の斉唱は強制的だった。それは、上意下達・滅私奉公の精神を子供に植えつけ、結果的に軍国主義・全体主義を推進するという結果を招いた。そのため、「君が代」斉唱の強制は、軍国主義や全体主義の復活につながる恐れがある。
③ 「君が代」は「国旗国歌法」により国歌と定められたものの、その法案審議は余りに拙速であり、国民的な議論を経たものとは言いがたかった。また、同法は国会審議の中で国民に新たな義務を課すものではないと説明されながら、成立後は「君が代」斉唱を強制する根拠のひとつとして利用された。

これに対して、賛成派の意見はおおよそ次のとおりである。

① 「君が代」の「君」は確かに「天皇」を意味するが、それは「日本国憲法」に定められた「日本国と日本国民統合の象徴としての天皇」にほかならない。従って、これを讃える歌は「日本国憲法」の原則と矛盾しない(なお、古典に照らし合わせれば「君」は単に「あなた」を意味し、従って「君が代」は「あなたの健康長寿を祈る歌」なのだから、そもそも「天皇の歌」という批判自体が当たらないという主張もある)。
②学校における「君が代」の斉唱は、日本人としての自覚と誇りを子供の心に育む上で欠かせない。今日のように国際交流が盛んな時代には、なおのこと国歌を通じて日本人としてのアイデンティティを確立することは重要である。そもそも国歌に対する儀礼作法は国際的な常識であり、このような常識を教えることは強制に当たらず、当然ながら軍国主義や全体主義の復活につながるわけもない。
③ 「君が代」は「国旗国歌法」が成立する前から国民に広く受け入れられており、事実上の国歌として使われてきた。「国旗国歌法」はこの慣習に法的根拠を与えたにすぎない。なお、「君が代」斉唱に限らず、教職員が職務命令に従うべきなのは「国旗国歌法」の有無を待つまでもなく当たり前である。
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