大脱走 裏切りの姫 鈴木英治著

大脱走 裏切りの姫 鈴木英治著

武田家滅亡直前の甲府を舞台に繰り広げられる家臣たちの戦国小説だが、中心テーマは単純明快である。主君・武田勝頼を見限った駿河城主、穴山信君(梅雪)の妻で信玄の娘、千鶴(ちづ)と嫡子・勝千代の甲府からの脱出行が成功するかどうか、この一点にすべては収斂する。勝頼に忠誠を誓う前島平蔵が、お家のために脱出を妨げようとして粉骨砕身する、その両者の駆け引き、戦いのドラマである。

とはいえ話の膨らみはさまざまに付け加えられ、人物像にも陰影がほどこされていて、十分に厚みがある。千鶴側からと平蔵の立場からの話が交互に現れ、物語は織物のようにして展開する。非情だが人間味溢れる平蔵、誰の死であろうと心を痛める心やさしい千鶴、どちらにも肩入れしたくなる。単に正邪で片付けない構成の妙だろう。殺し合いの場面はリアルにすぎるほどだが、結末に救いがあることも手伝い、さっぱりした一級エンターテインメントに仕上がっている。(純)

中央公論新社 1680円

Amazonで見る
楽天で見る

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • ゴルフとおカネの切っても切れない関係
  • 360°カメラで巡る東京23区の名建築
  • ブックス・レビュー
  • 競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
5G革命<br>勃興する巨大市場をつかめ!

現在の「4G」に続く、新しい移動通信システム「5G」。「超高速」だけではなく「超低遅延」「多数同時接続」が可能になり、私たちの暮らしやビジネスはがらりと変わる。動画配信、ゲーム、自動運転、スマート工場や通信業界の未来像を紹介。