満員電車も遅延も許せない! 通勤問題に特効薬はあるか《鉄道進化論》



 輸送力増強に効果を発揮する複々線化は明確には対象事業に規定されていないが、森地所長は「国民だけでなく財政当局、政治家も現在の状況がひどいことはわかっている。もし今の制度でやりにくいところがあれば制度を変えればいいのではないか」と言う。森地所長は交通量と走行速度に関する道路渋滞の理論を鉄道の過密ダイヤに応用し、「列車運転方式の変更」の可能性も研究している。

ただ、いくら助成制度を整えても、鉄道会社や行政が実際に動かなければ事態の改善は見込めない。鉄道の経営判断の前提には、人気路線といえども、15年もすれば通勤人口はピークアウトするという人口動態の見通しがある。上場鉄道会社からは「混雑対策のために使う資金について、投資家から費用対効果の説明を求められる」といった声も漏れる。

通勤問題があと10年続くとして、前述の推計に従えば社会が被る不利益は2兆円にも達する。見方を変えれば、鉄道会社1社の経営の観点でなく、社会全体にとってみれば2兆円の便益を生む事業が目の前に存在していることになる。推計に当たった岩倉教授は「仮に1兆円を投資したとしても、2兆円の社会的費用が解消されるならば、費用便益分析の観点からも通勤問題の解消は優良なプロジェクトとなる」と主張する。

また東京の人口は、予測どおり減少に向かうのかどうか、異論もある。人口の東京一極集中の背景には地方の疲弊があり、この構図が大きく変わる様子はない。将来は外国人労働者の受け入れが進むだろうことも考えると、東京圏の人口が想定を超えて逆に増え続ける可能性も現実味を帯びてくる。ほぼ完成したといわれる首都圏の鉄道ネットワークを再考する余地も出てくるのではないか。
(週刊東洋経済)

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