満員電車も遅延も許せない! 通勤問題に特効薬はあるか《鉄道進化論》

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 そもそも遅延の原因はどこにあるのか、鉄道各社に聞いてみると、「人身事故や故障もあるが、多いのは無理な駆け込み乗車やカバン、傘が挟まれることによるドアの再開閉、車内での急病人」など、回答はおおむね一致した。ただこれでは、なぜ遅延が最近になって急増しているのかの説明がつかない。

運輸政策研究所の研究員・仮屋崎圭司氏は「余裕時間の少ない過密な運行ダイヤ」を遅延増加の背景として指摘する。確かに丸ノ内線を筆頭に運行間隔の短い路線では遅延が多い。遅延が発生すると、次の駅ではより多くの乗客が待ち受けているため、乗降にますます時間がかかる。運転間隔が短い後続列車もすぐ後ろにいるから、速度低下や一時停止を迫られる。さらに、遅延した列車への乗客の集中を防ぐため、先行列車もわざと遅らせて待つ必要がある。

過密ダイヤを組む目的は明白。輸送力を増強して、車内の混雑を抑えるためだ。ところが、列車の増発を続けると、ついには線路上で列車が渋滞してしまう。そして一列車の遅延が回復できず、路線全体に遅延が拡大する「副作用」が生じる。

地下鉄と民鉄やJRの相互直通も「副作用」に一役買っている。乗り換えが不要となり、駅の混雑も減少できる反面、1社で発生した遅延や輸送障害が事業者を超えて広域に拡大するリスクと裏腹の関係にある。メトロがネットで開示している「運行情報履歴」でも、相互直通先の別の鉄道会社の路線が遅延の原因であるケースも多いことが確認できる。

朝のラッシュ時では、時刻表どおりの運行だとしても閑散時に比べ所要時間が長く設定される傾向がある。乗降客が多い分だけ駅での停車時間を長くする必要があるし、「列車が混雑しているために駅間の走行時間も増加する」(仮屋崎氏)。通勤客は「混雑」「長い所要時間」「遅延」の三重苦に耐えなければならない。

「痛勤」はどれほどの経済的なマイナスをもたらしているのか。芝浦工業大学の岩倉成志教授が混雑・遅延の「社会的費用」を算出している。利用者の行動データを基に計算すると、たとえば「遅刻が嫌で10分早く出ているが、遅延しないなら運賃が70円くらい高くてもいい」といった想定が導き出せる。このように計算を進めると、都区内へと通う利用者が被る社会的費用は、年間で2180億円にもなる。

岩倉教授は「計算の前提条件を極めて保守的に設定した」と言う。確かに「電車が遅延したために大事な試験や会議に遅れる」といったケースまで想定すれば、実際に社会が被っている不利益はさらに膨大なものになる可能性もある。


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